第94話 謝りたいこと
突然のノックに私は、一瞬マリアが戻ってきたのかと思う。
しかし、すぐに私はその考えを否定した。
マリアなら、ノックしてすぐに挨拶してくれるはずだ。
しかし、少し待っても返事が返ってくることはない。
それは明らかに、訪ねてきた人間がマリアでないことを物語っていて……だったら一体誰が訪ねてきたのだろうか。
ようやく声がかえってきたのは、それから少ししてからだった。
「……サーシャリア、セインだ。少しいいか?」
訪ねてきた人間の正体を理解した私は、その瞬間思わず失笑していた。
なるほど、道理でノックから挨拶まで時間があったわけだと。
セインに苦手に思われている自覚のある私は、苦笑しつつ口を開く。
「ええ、大丈夫よ。入ってきて」
そう告げてから少しして、遠慮がちに扉が開かれる。
そして露わになったのは、気の乗らない表情をしたセインだった。
その表情に、私はさらに苦笑しそうになる。
そう露骨にいやがられる原因が理解できていたからこそ。
実は生徒会時代に私は、セインのソシリアへの思いを徹底的に煽ったことがあった。
もちろんそれは悪意からの行動ではない。
その当時、セインは身分違いを理由に、自身の思いを隠し通そうとしていた。
その心に気づいた私は、セインに発破をかける意味で煽っていたつもりだった。
とはいえ、理由があったとしてもセインがそういうことを苦手とすることを私は知っていた。
それ故にこう警戒されても仕方ないことだと私は理解していた。
……特に、ソシリアとアルフォードが婚約した今、気まずさもあるに違いない。
しかし、そのことを理解しながら、それでもこのことについてセインと話したいと思っていた。
すべては、きちんとセインに謝罪するために。
前回きたときにも、このことについて謝罪しようとしていたのだが、躊躇してしまった。
そして、その間にセインが去ってしまったことで、きちんと謝罪できなかったのだ。
だから今回はその前に、そう覚悟を決めて私は口を開く。
「……用件を聞く前に少し、アルフォードとソシリアの婚約について、少しいい?」
卑怯なことをしているという自覚に、罪悪感を覚える。
しかし、セインの返答は想像もしていないものだった。
「ああ。俺もそのことについて話をしにきた」
◇◇◇
次回から、セイン視点となります。
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