第92話 胸に巣食う不安
マルクとリーリアが部屋を去った後。
一人になった部屋の中、私は深々とため息をもらした。
「……こんなに平静を保てないなんて、思ってもなかったな」
ふと自分の手に目をやると、無意識のうちにその手は書類の方に伸びていた。
あまりにも分かりやすい自信の態度に、私は思わず笑ってしまいそうになる。
これで、よくマルクとリーリアに異常がばれなかったことだ。
「次話すときは、もっと平静を装えるようにしないと……」
そう呟きつつ、私の胸に痛みが走る。
言葉と裏腹に、今度の話し合いがあったとしても上手く話せる自信など私にはなかった。
……久々になるマルクとリーリアの再会、それはそれほどに私の胸に大きな衝撃を残していた。
決して、二人との再会がうれしくなかった訳ではない。
二人のことは本当に大好きだし、長年二人の恋を見て、応援してきたのだ。
こうして、実際に二人が結ばれたことを目にして、うれしくない訳がない。
ただ、成長した二人を前にすると私は実感せずにはいられないのだ。
……成長した二人に対し、私はなんて情けないのかと。
家族に、婚約者に裏切られ、王宮に逃げ込んだ姿。
それは、久々の再会として見せるには、あまりに情けないものだった。
だからこそ、私はそのことを二人に謝罪されたときあまりにも恥ずかしく、同時に怖くてたまらなかった。
こうして、二人が私に接してくれるのは、あとどれくらいなのだろうかと。
……この表情が軽蔑に変わるまで、一体どれだけの猶予が残されているのかと。
そこまで考え、私は反射的に思考を止める。
そして何とか、明るく告げる。
「でも、久々にあえて良かったわ」
それは紛れもない本心で、私の心からの言葉だ。
……なのに、私はその言葉空々しいものにしか聞こえなかった。
久々に来てくれた友人相手に、こんな思いしか抱けない自身に、私は
更に罪悪感を覚える。
けれど、いつも通りに接してくれる度に、私は思わずにはいられない。
……いつか、その視線が軽蔑に変わったとき、私は耐えることができるのかと。
それは、マルクとリーリアだけのことではなかった。
時々やってくるセイン、そして私をいつも気にかけてくれるソシリア。
その生徒会メンバーにたいしても、私は不安を感じずにはいられなかった。
生徒会メンバーの優しさはよく私は知っている。
けれど、それ故に私は思わずにはいられない。
そんな皆が私を軽蔑したとき、私は正気でいられるのだろうかと。
……そんなことになれば、私はカインの本音を知ったときよりも衝撃を受けるだろう。
その想像に、私は強く書類を握りしめ。
「……あれ?」
ふと、私が違和感に気付いたのはそのときだった。
小さく、私はその違和感を呟く。
「どうして私は、アルフォードに対しては不安を抱いてないんだろう?」
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