第68話 修羅見参

 ……マリアに語りながら、私は強い羞恥心を覚える。

 本当に自分が情けなくて。

 自分がもっと強い心を持っていれば、素直にアルフォードが来たことを喜べただろうに、と。


 そう、実のところうれしくないわけがなかった。

 当たり前だ、自分が辛いときに好きな人がそばにいてくれるのだ。

 これ以上の贅沢など考えられない。


 ……親友の婚約者ということがなければ、私はもっと浮かれていただろう。


「ソシリアも、私にとって大切な人なの」


 そう言いながら、私はここに来てから、親身に付き添ってくれたソシリアの姿を思い出す。

 忙しいはずなのに、ここに来て一週間ソシリアは、マリアと同じくらいそばにいてくれた。


 思えば、生徒会メンバーで一番早くに打ち解けたのもソシリアだった。

 今の伯爵家の事業があるのも、ソシリアが言ってくれたお陰だ。

 ソシリアは私にとって、かけがえのない友人なのだ。


「だから、私は絶対にソシリアとアルフォードの邪魔にはならない。そう決めているの」


 ……そのはず、だった。


 その決意と相反する思いばかり感じてしまっている自分。

 その姿に苦笑を漏らしながら、私は小さく告げる。


「……決めていたのに、ね」


 そして私は、顔を隠すようにベッドに押しつける。


 ──だからこそ、私は気づいていなかった。


 私の話を、じっと黙って聞いてくれていたマリア。

 その表情が、いつの間にか般若のような形相に変わっていたこと。


 そして、その手にとても堅そうなお盆が握られていたことを。


「少し、席を外しますね。サーシャリア様」


「え?」


「大丈夫です、すぐに戻りますので。……問題を綺麗に片づけてきます」


 綺麗な笑顔で、ただならぬ殺意を滲ませながら部屋を出ていったマリア。

 その背中を、私は呆然と見送ることしかできなかった……。



 ◇◇◇



 文字数少なくて、申し訳ありません!

 次回から、アルフォード視点となります。

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