第34話 アルフォードの変化

 呆然と佇みながら、胸が痛いほどなっているのを私は感じていた。

 おかしい、こんなにアルフォードは感情豊かではなかったはずだ。

 どうして、こんなにも楽しそうに笑っているのか?


 ……同時に、昨夜目にしたアルフォードの泣き出してしまいそうな表情を思いだしてしまって、私は俯く。


 さらに高鳴っていく心臓に、私はいっそのことこの場から逃げ出してしまいたくなる。

 お腹も空いているのに、もはや私には食事を楽しむ余裕など残されていなかった。


 あれもこれも、ソシリアが教えてさえくれていれば。


「これおいしいわね」


 そんな思いで顔を向けると、耳が回復したらしいソシリアは料理に舌鼓を打っている。

 ……緊張のあまり食事に集中できない私など、眼中にないらしい。

 いっそのこと、文句でも言いにいってやろうか、などと考えながら、私はソシリアを睨みつける。

 心配そうにアルフォードが声をかけてきたのは、そんな時だった。


「食欲がないのか?」


 またもや答える言葉に窮した私は、曖昧に笑いながらも必死に頭を働かせる。

 けれど、私が答える前にアルフォードは自身の皿に盛りつけられた料理をすくい、続けた。


「それなら、これは食べやすいぞ。俺の好物だ」


 眼前に差し出されたスプーン。

 それを目にして、私の思考は停止した。


「どうした、食べないのか?」


 怪訝そうに問いかけていくるアルフォードを、私はただ見つめることしかできない。

 本当に、こんなことをしていいのだろうか。

 私は救いを求めて、ソシリアへと目を向ける。

 けれど、ソシリアは無言で首を振るのみ。

 ……まるで諦めろ、と言いたげに。


 正面を見ると、変わらずアルフォードはスプーンを差し出したままだった。

 真っ白な頭の状態で、私は口を開こうとする。

 制止の声が響いたのはその瞬間だった。


「……許可なき発言を失礼します。けれどアルフォード様、お戯れがすぎるのではないでしょうか」


 声の方へと振り向くと、そこにいたのは妙齢の侍女だった。

 彼女は、きっぱりと告げる。


「いくらお身内でも、やめた方がよろしいかと。──婚約者である、ソシリア様の前ですよ」


 すっ、と熱が冷めるような感覚を私が感じたのはその瞬間だった。

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