第27話 専属侍女

 それから、少しの間私はソシリアと取り留めのない会話をしていた。

 事業を補佐してくれていたマルク、カイザスの商会のことなどの、学園を後にしてからについて話し合った。


「あら、もうこんな時間」


 そして、ソシリアがそう告げたのは昼も過ぎた頃だった。

 その言葉に私は、いつの間にか自分が空腹を感じていることに気づいた。

 そんな私の内心を見越したように、ソシリアが告げる。


「そろそろ食堂に行きたいわね。その前に、サーシャリアも着替えないと。いつかサーシャリアが泊まりにきたときの為に用意していたドレスがアルのだけど、それでいいわよね?」


「え、ええ」


 内心準備の良さに驚きつつも、私は頷く。

 それを確認して、ソシリアは部屋に備えられたベルを鳴らす。


「これからくる侍女は、サーシャリアの専属になる予定だから」


「専属? そんな、私なんかに……」


「いいから、いいから。あの子のためと思って受け入れてちょうだい」


「……どういうこと?」


「いいから」


 不自然な言動に思わず尋ねるが、楽しげなソシリアが答えてくれることはなかった。

 こうなったら、ソシリアは何も教えてくれない、今までのつき合いからそれを知る私は渋々口を閉じる。

 だがその内心は、ソシリアと対照的に曇っていく。


 ……侍女と言われて私が思い出すのは、伯爵家の使用人だった。


 伯爵家での私に対する使用人の態度は酷いものだった。

 それ故に私は使用人に対する抵抗感を抱いていた。

 せめて、仕事はきちんとしてくれる人であって欲しい、そう私は願いながら、侍女の到着を待つ。


「は、入ってよろしいでしょうか!」


 扉の外から緊張を隠しきれない若い女性の声が響いたのは、それから少しした時だった。

 私は思わず身構えてしまったが、ソシリアは軽く告げる。


「ええ、どうぞ」


「失礼します!」


 そして部屋に入ってきたのは、一四、五歳の可愛らしい侍女だった。

 見るからに緊張したその姿に、内心私は安堵する。

 少なくとも、この子なら仕事を無視するようなことはしまいと思って。


「え?」


 ……しかし、部屋に入ってきてからまっすぐこちらに向かってきた少女の姿に、私の中から安堵が消え去ることになった。


 一体何故、私の場所に真っ直ぐ?

 いや、そんなことはどうだっていい。

 とにかく逃げ出さねば……。


 と、反射的に私は判断するが、突然のことに私は固まってしまう。

 その間に私の目の前まできた少女は、ぴた、と立ち止まる。

 そして。


「そ、そのどうかサインをいただけないで、ひょうか!」


「……は?」


 次の瞬間、噛みながら手帳らしきものを差しだした少女に、私は呆然と声を上げることになった。

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