第6話 必死の説得

 まるで想像もしていなかった両親の答え。

 それに、私は呆然と立ち尽くすことになった。

 満面の笑みで嬉しいと言い切ったお母様に反応できない程に混乱した頭で、私は気づく。


 ……大丈夫、それについては問題ないよ。


 カインが婚約破棄の時口にしたその言葉。

 それを私は、アメリアとの婚姻なら両親が無条件に許すからだと考えていた。

 けれど、それは勘違い。

 あの言葉は、既に両親との会話まで終わっていたことを示していたのだ。


 思わず言葉を失った私の一方、両親は喜びを隠しきれない言葉で続ける。


「ということで、大丈夫だサーシャリア。婚約破棄にはなんの問題もない」


「ええ、そうよ。もちろん婚約破棄されたからと、貴女を家から追い出すつもりもないから安心しなさい。元通り、事業を手伝ってくれればいいわ」


 そう言いながら、両親が私に向ける笑顔には一点の曇りもなかった。

 それこそが、カインがアメリアと婚約することを認めていることを雄弁に物語っていて。


 ……私が、自身を抑えきれなくなったのはその時だった。


「ふざけ、ないで!」


 私は激情のままに、両親を睨みつける。


「そんなこと言われて、認めるわけがないでしょう!」


 そんな私の言葉に、一瞬両親の顔に驚愕が浮かび、次の瞬間怒りが浮かぶ。


「ふざけるな! 両親に向かって、なんて態度を取っているんだ! 育ててもらった恩を忘れたのか!」


「貴女はアメリアの姉でしょう! どうして、妹の幸福を喜べないの!」


 烈火のごとく怒りを露わにして、両親は私を怒鳴りつける。

 普段ならば、私はそこでもう無駄だと反抗をやめていただろう。

 けれど、今回は私も負けじと声を張り上げる。


「喜べるわけがないじゃない! 妹だからと言って、婚約者を奪われて許せる理由にはならない!」


 普段と違い、一切引き下がる気のない私を、両親は憎々しげに睨み吐き捨てた。


「何が奪わられた、だ。都合が悪いことが起きれば、全て他人のせいか? 全部お前が、婚約者にそっぽを向かれたお前が悪いんじゃないか!」


「そうよ。こうして恩知らずにも、口答えする可愛げのなさ。それが貴女が捨てられた理由じゃない。被害者ぶっているそのそんな性根だから、こんなことになっただけじゃない!」


 全てを私のせいと断定する両親の言葉に、私の心が軋むような音を立てる。

 それでも私は、必死に両親を睨みつける。

 分かっている。

 私だって、自分の可愛げのなさくらい分かっている。


 それでも、ここで引き下がってしまえば、もうカインを取り戻すことはできない。

 その思いを燃料に、私は自分を必死に奮い立たせる。


「そもそも、もう何をしようが遅い!」


「ええ、そうよ。もう王都では、貴女の婚約破棄は知れ渡っているのだから」


「……え?」


 しかし、そうして私が自分を奮い立たせていられたのは、その言葉を聞くまでだった。

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