第四話「飛び降り少女(2)」

 突然現れた少年に対して、紗優が聞いた。

「あなたは……誰? なんでここにいるの……?」

 少年――ライは、質問には答えずに、呟いた。

「勿体無いなぁ。せっかく可愛いのに」

 その言葉に、紗優は激しく反発する。

「何も知らない癖に! 勝手な事言わないで!」

 この男も、他の者たちと同じだ。人を見た目や、匂いや、そういったものだけで判断するのだ。人間性や、性格、それに、どのような人生を歩んで来たか、どんな目に遭って来たかを知りもしないで、自分勝手に他人を評価するのだ。

 感情をぶつけて来る紗優に対して、ライは、

「ああ、知らないね」

 と、淡々と答えた。

 本来であれば、女性慣れしていないライが、美少女とこんなに堂々と喋る事など出来るはずが無い。が、今のライには、九十九万九千九百九十九人の女性の服を脱がして、その裸を生で見て来たという自負があり、妙な自信をつけており、それが美少女との会話を可能にしていた。

「俺は、勿体無いと思ったから、そう言っただけだ」

 ともすれば、冷たく聞こえるような、淡々とした口調でそう言いながら、ライが、紗優の方へと、ゆっくりと近付いて来る。

 すると、

「来ないで!」

 と、紗優が叫んだ。

 しかし、ライは止まらない。

「近付いたら、今直ぐに飛び降りるから!」

 そう続ける紗優。

 だが、ライは、

「飛び降りたければ、飛び降りればいい」

 と、無感情に言った。

 それに対して、紗優は、

「本気だと思ってないのね?」

 と言った。

 どうせ、死ぬと言いながらも、怖気付いて、結局飛び降りはしないのだろうと、少年は思っているのではないか。

 だったら! 飛び降りてやる!

 そう思って、紗優は叫んだ。

「あなたの予想は外れ! 残念でした! ざまぁみろ! 私の勝ち!」

 吐き捨てるようにそう言うと、紗優は、仄暗い笑みを浮かべながら――

 ――空中へ身を投げ出した。

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