人型ロボットが蔓延る世界に生まれた俺のヒロインが全員ヤンデレだった件について
門崎タッタ
テレシア・ハイドルトン①
「力を持つ者には、力を持たない者を守る義務がある。弱きを助け、強きを挫かねばならんのだ」
と、魔道騎兵のパイロットである親父は言っていた。
身内の人間以外と会話できなくて、魔道騎兵の操縦が上手い事以外の取り柄が無かった親父。
だが、親父は誰からも愛されていた。
……何故なら、めちゃくちゃ強いから。
本来なら、複数人で相手しなければ倒せない魔物を親父はたった一人で倒せる。
それどころか、圧倒的な実力差がある帝国を前に相手にしても、恐れずに立ち向かう親父は、大多数の人々にとって英雄で。
だからこそ、多くの人々が親父を英雄と呼んだ。
銀色に輝く甲冑のようなワンオフ機を操って、戦場を駆け抜ける親父は誰よりもカッコよくて。
図体が大きくて強大な力を持つ魔物や、王国を侵略しようとする帝国に怯える人たちにとっては英雄そのものだった。
そして、親父は最後の最後まで、帝国と戦って、勝利を収めたものの致命傷を負い……。
俺を含めた大勢の人達に看取られながら、死んだのだ。
……だからこそ、憧れた。
俺も親父のように。
いや、親父を凌駕するパイロットになって、世界中に名を轟かせる英雄になりたい。
そう願ったからこそ、俺は努力した。
無我夢中で体を鍛えた。
容姿にも人一倍気を遣い、色んな人と沢山会話をして、大なり小なり善行を積み重ねた。
勉強なんて大嫌いだが、馬鹿だと思われたくはないので、ありったけの本を読んだ。
…‥その結果、俺は見事に魔道騎兵のパイロットになる事ができた。
弱冠16歳で魔導兵器を操る騎士に任命されたのだ。
これは自慢なのだが、訓練兵時代の俺は、周囲の人々に秀才と呼ばれ、持て囃されていた。
座学などの成績は常に2番目を維持しており、魔導騎兵の実技で同期に敗北した経験は、一度もない。
……とある人物を除けば、であるが。
そして、今日は記念すべき俺の初出撃の日であり、今回の任務で俺が戦う相手は低級魔物のゴブリン。
率直に言って負ける気がせず、ゴブリンを蹂躙し尽くして無双する未来しか見えない。
ああ、本当に楽しみで仕方がない。
今日の戦果を足がかりに、期待のホープとして名を上げて……。
「鼻歌を歌うなんて、随分と上機嫌ですね……貴方はこれからお散歩にでも出かけるんですか?」
「…………」
悠長な事を考えながら魔導騎兵の起動シークエンスを進めていると、端正な顔立ちをした少女がモニターに映し出されて。
それと同時に、彼女の口から切れ味の鋭い皮肉の言葉が飛んできた。
少女の名前はテレシア・ハイドルトン。
年齢は俺と同じ16歳で、秀才と呼ばれていた俺がどの分野でも勝つことができなかった因縁の相手である。
彼女は化け物じみた魔導騎兵の操縦技術と、常に適切な状況判断を下せる優秀な頭脳を持つ純度100%の天才で。
セミロングの銀髪とつり目がちの紫色の瞳が特徴的な美少女で。
尚且つ、国の政治に口出しできる程度の権力を有するハイドルトン家の御令嬢という立場もある規格外のチート女であり。
そこまでの素質を持っているのにも関わらず、彼女は決して驕らない。
現状の自分に妥協せずに淡々と努力を積み重ねる勤勉さを持っているのだ。
そのような熱い面とは裏腹に、彼女は物静かで常に他者との交流を絶っていて。
感情の起伏が滅多に表情に出ないため、訓練兵時代の同期からはロボット女という不名誉な渾名を付けられていた。
……ここまで書き連ねれば、テレシアの凄さを十分過ぎるほどに理解してもらえただろう。
本来ならば、こんなにもハイスペックな彼女の眼中に、俺のような凡夫が映るはずがない。
けれども、どういうわけかテレシアは訓練兵時代からずっと俺に絡んでくるのだ。
「何、ぼーっとしてるんですか。出撃前だというのに相変わらず危機感の欠如が甚だしいですね」
まぁ、それは友好的な関わり方では断じてなく、彼女から俺に向かって一方的に罵声を浴びせるような……歪な関わり方ではあるのだが。
「心配してくれてありがとうな、テレシア。でも、俺……こんなんでも、危機感は持っているつもりだから」
そう告げると、勘違いかもしれないが、テレシアの口角が微かに上がった気がする。
だが、確認する間も無く、通信が強制的に切断されてしまった。
どうやら、作戦に参加するパイロット達の出撃準備が整ったようで、もうそろそろ任務が始まるようだ。
「総員出撃準備完了!これよりゴブリン掃討作戦を開始する!」
そう高らかに言い放った隊長の号令によって、俺の初出撃の幕が開けた。
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