2-4 食えないカニに価値などない
ハングリーボアや盗賊を倒した後は時たま数匹のモンスターに襲われたが、2人は特に苦戦する事なく突破。
辺りが暗くなってきたところで、バーンナークの町に到着した。ツバサとルリが手早くモンスターを倒したため、いつもより早い時間の到着だという。
前の町、アリアークと比べるとバーンナークの町はかなり発展していた。
建物の数、大きさが段違いだ。都会といっても差し支えないだろう。人の数も多く、夕方なのに町には活気がある。
商人から依頼達成のサインをもらい、別れる。
ちなみに盗賊は町の入り口の憲兵に引き渡した。なお、盗賊相手なら別に殺しても良かったらしい。
また、憲兵からは盗賊討伐の証明書をもらった。ギルドに持っていけば報酬がもらえるらしい。
ツバサとルリは依頼達成と盗賊討伐報告があるため、ひとまずギルドに直行した。
ギルドの内部もアリアークの町よりはかなり広くなっている。
「バーンナークのギルドにようこそ。どういったご用件でしょうか?」
バーンナークのギルドの受付も女性だった。黒髪ロングで落ち着いた印象を受ける人だ。
歳はやはり20代前半に見え、胸はそれなりといったところか。言うなれば美乳だ。
「この町までの商人の護衛依頼を達成したのと、魔石の買取、あと途中で討伐した盗賊の件で……」
「承知いたしました。少々お待ちください」
受付のお姉さんがツバサの出した書類を確認し始める。
ルリはというと、さっそく依頼が貼り出されているところで依頼書を眺めている。
「お待たせしました、報酬はこちらになります」
差し出された報酬は、クレイジートレントの討伐代金の半分程だった。
これでも半月くらいは宿に泊まり続けられる額なので、割り増ししてくれたアリアークのギルド長には感謝だ。
名前は忘れてしまったが。
「ルリー、報酬貰ったぞー」
ツバサが呼ぶと、ルリは依頼書を持ってとてとてとこちらに来た。
「ツバサ、ツバサ。これ、受けよう」
ルリから差し出された依頼書を確認する。
内容は『サマント湾浜辺に出現したギガントクラブの群れの討伐』。やはりモンスター討伐系のものだった。好きだなホント。
ギガントクラブのランクはC。数が多いからか報酬もかなり多い。確かに魅力的だ。
「この依頼を受けたいんだが」
早速、受付のお姉さんに提示すると、その顔は少し曇った。
「あの、この依頼、お2人だけで受けられますか?」
「そのつもりだが、なんかマズいのか?」
「ギガントクラブはCランクの中でも厄介なモンスターです。特に防御力がかなり高くて、攻撃を通すのは難しく、人によっては全くダメージを与えられないほどです。それが今回は群れなので……魔法を使えるメンバーを複数入れたパーティーでないと厳しいと思います」
そういう事か。こちらにはルリがいるが、どうなんだろう。
結構強い魔法使いだとは思うが、少し心配なのも確かだ。ツバサは少し考える。
「……危険を感じたら、一度撤退して作戦を練り直そうと思う。だからとりあえず受けさせてくれ」
「承知いたしました。ご無理はなさらないでくださいね」
「ところで、群れってどれくらいいるんだ?」
「報告によると、20体はいるようですね。こちらは群れの討伐依頼なので、浜辺にいるギガントクラブは全て倒して頂く必要があります。受注者からの達成報告後、ギルド職員が浜辺に確認に参ります」
20体か。ルリのMPが心配なところだ。場合によっては何日かに分ける必要もありそうだ。
達成期限は1週間と記載されているので、時間的余裕はある。慎重に行った方がよさそうだ。
「……わかった。あと、魔石の買取を2つお願いしたい。前の町では買い取れないと言われて、このバーンナークの町なら買取できると言われたんだが」
そう言ってツバサは、ルリの記憶の玉を持っていた青いドラゴンと、森林王の魔石を受付に渡す。
「これは……確かに私では鑑定できない魔石ですね。専門の者に回します」
今度こそ買い取ってくれるといいんだが……。
とりあえず用事は済んだのでギルドを後にしようとすると、受付のお姉さんに呼び止められた。
「お待ちください。この町ではCランク冒険者様にスキルを渡しておりまして……。『弱点解析』と言って、『ステータス確認』した際に弱点も確認できるスキルです。Cランク以上でないと付与できないスキルですが、お2人とも条件は満たしているので付与させていただきます」
どうやら、ここでもスキルをもらえるらしい。ありがたい話だ。
ツバサとルリが、アリアークの町でもそうしたように手を差し出すと、受付のお姉さんがそこに触れ、目を閉じる。
「はい、これで付与完了です。Cランクのモンスターにもなると、弱点を突かなければ難しい相手も多いですので、是非ご活用ください」
確認すると、確かに『弱点解析』が使えるようになっていた。
これでツバサのスキルは4つとなった。とはいえ、その半分がギルドで付与されたものなので少し複雑な気分だ。
他のCランク冒険者はどのくらいスキルを持っているのだろうか……。
「ありがとう。上手く活用する」
まあ、そもそもツバサは属性がついてそうな攻撃手段はないのだが。
いや、もしかして物理とか斬撃が弱点の相手とかいるのだろうか?
いたとしても、主にルリが活用できる場面の方が多いだろう。
ツバサとルリはギルドを後にした。
サマント湾浜辺は町から近い位置にあるので、とりあえず偵察がてら行ってみる事にした。
なお、記憶の玉の方向はそちらではないらしい。
記憶の玉の在り処は町から遠い方面にあり、かつ、めぼしい依頼もなかったとルリから聞いた。
2人は町の出口に向かう途中、武器防具屋に寄り、可能な限り装備を新しくしていた。
一番良い装備には金銭の問題でできなかった。流石は大きな町といったところか。
ツバサは剣を新しくし、ルリはローブを新調した。
ルリの新しいローブは白を基調とし、ところどころ金の刺繍がしてあり、どことなく神々しい。
ルリの銀の長髪とローブの白にこの金が加わったことで、今までより更にルリに似合っていた。なんだこいつ天使かよ。
(とは流石に直接言えないけどな……)
町を出ると程なくして、海に出た。
例によって立てられている看板に『サマント湾浜辺』とご丁寧に書いてある。
浜辺を端から逆側に向けて歩いていくと、何か大きな影が見えてきた。
(あれがギガントクラブか……?)
ステータス確認を発動するが、失敗した。
距離が開きすぎていると上手くいかないようだ。
また一つ学習。トライアンドエラーだ。
浜辺と街道の境には草木が生い茂っている。
接近を気付かれないように、ツバサとルリはその茂みに隠れるように低姿勢で進む。
ギガントクラブに近づくにつれ、その姿が明確に見えるようになってきた。
簡単に言うなら、巨大なカニだ。体長は2メートルはあるだろう。身体は殻に覆われており、見るからに堅そうだ。
こちらに背を向け、カニらしくハサミを掲げて横へカサカサと移動している。
(『ステータス確認』)
・ギガントクラブ
HP120 SP30 MP30
弱点:雷
流石に視認可能な距離では成功した。
森林王を除けば今まで出会ったモンスターの中でも最大だ。
これでツバサの攻撃の通りが悪く、ルリの魔法でも何発もかかるようなら厳しい相手だ。群れならなおさらだ。
とはいえ、試してみない事にはわからない。とりあえずこの1匹と戦ってみよう。
「ルリ、まずはこいつを倒す。雷が弱点らしいから、今日使ってたサンダー・バイトで攻撃してみてくれ」
あれ、多分雷属性だよな? サンダーって付いてるし。
違ってたら俺はこの世界の常識を疑うぞ。
「うん、やってみる。けど、その前に」
「なんだ?」
「……あのカニ、美味しそうだから生け捕りに、できない?」
……。
「モンスターだから死んだら消えるし、食うのは無理だろ」
「! !!!」
ルリが目を見開く。無表情でわかりにくいが、愕然としたようだ。
そして、ゆらりと立ち上がる。
「食べられないカニに、価値はない。消えて。サンダー・バイト」
ギガントクラブに雷の蛇が直撃する。ギガントクラブは灰になった。
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