ヘルズ
カインが城から外へ出ると、ジークに引き留められているアベルとギルがいた。焦った様子の二人はカインの姿を見て、口を開いたまま様子を窺った。カインは何も言わずに首を振る。
「誰も、助からなかった」
その場の四人は、地に視線を落とした。ジークは「奴は、倒したのか」と訊くと、カインは再び首を振った。
「自滅した、今はもう何もいない」
それを聞いたジークとギルは一目散に城の中へ入っていく。カインは敢えて引き留めはしなかった。あの惨状を目の当たりにすれば、誰しも衝撃を受けるが、それが生き残った騎士団長の務めなのだとわかっていた。暫くすると、ジークとギルは酷く憔悴した様子で戻ってきた。
「帰還だ。一刻も早く、王に報せなければ」
「父上の言う通りか……。カイン、アベル、お前たちも王に謁見してくれるな?」
王の話題が出た途端、アベルが激しく首を振った。
「い、いえ、自分らが王に謁見するなど……遠慮しておきます。疲れも溜まっています。静かに休ませていただきたい」
「何を言う、此度の活躍は、王に報告せねばなるまい。このような結果にはなったが、それなりの報酬は出ると思うが」
しつこく説得してくるジークに、カインが「それでもお断りだ」と語気を強めて断った。それからジークとギルをその場に置いて、カインは立ち去った。アベルもあたふたとしながら、カインへとついて行く。
やがて森の木陰に腰かけたカインは、一息ついた。体の傷をひとつひとつ眺め、致命傷がないことを確認した。アベルは、眉をハの字にしながらカインを見下ろす。
「会えない理由はわかりますが、あんなに強く言わずとも。無礼でしたよ」
「アベル、"ヘルズ"という名前。知ってるか」
アベルは唐突に発せられたその名前を聞いた途端、不思議そうに首を傾げた。あたかも当然のことを聞かれているかのような、そんな表情にさえ見えた。
「え、ええ。死と夜を司る
「やっぱり、か。いやなんでもない。少し忘れてただけだ、あんがとよ」
「それなら、まあ、良かったですが」
「ほれ、そろそろあのカタブツ親子もいなくなってる頃合いだし、帰るぞ」
カインは尻の土を払いながら立ち上がり、アベルと共にグラントへの帰途についた。カインは道中、ヘルズのことばかりが頭を駆け巡っていた。
呪眼、久方ぶりの顕現、肉体の限界、夜避けの武器、そして何よりあの状況とあの強さ。数多くの呪いを知ってはいれど、あの人数を一瞬にして洗脳してしまう呪いなど、聞いたことがなかった。媒介となる宝石も身に着けていない。媒介なしに発動できる魔導は存在しないのである。
その動機や目的は不明だが、ただ、カインは超常の者と対峙したのだと確信した。
第二章 【無礼冒険者と無名の城】終
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