大斧のカイン

 ギルは、カインのその重苦しい空気感と悲哀に満ちた表情から、これ以上は聞くまいと一言謝ってからその場を後にした。


────翌朝、戦いは更に激化していた。

 しかしながら人間側が圧倒的に優勢であった。元来、人間に比べ知能の低いモンスターが人間に勝つ術は少ない。力で押さえつけるか、数で押し切るか、特殊な技で対策される前に仕留めるか、その程度の選択肢しかなかった。


 多くの人間に勝っているであろうモンスターの身体能力も、その連携の前には無力に等しかった。モンスターらはそんな人間を、まるで城に近づけさせないように、少なくなった勢力を城門前へと集約させた。カインらはそんなモンスターらを追いかけるようにして、城門前へと走った。そんな中、カインは首を傾げる。


「奇妙なのは敵の指揮官がいないことなんだよなぁ……。こっちほどじゃないにしろ、ある程度の統率が取れてる感じがする」


「そうでしょうか。ただ巣を守っているだけにも見えますが」


 カインが集約しつつある敵へと突撃すると、魔斧ドラードを大きく振りかぶった。モンスター数体を切り裂き、その勢いを殺さないまま、その場で反転して前進しながら切り込み続ける。魔斧は怪しく赤く光輝き始めたが、カインの体感では普通の大斧より特に切れ味が増したようにも思えなかった。疑問は浮かんだが、大斧としては申し分ないためそのまま前進を止めることはなかった。


 そんなカインを見たジークは、周囲の冒険者にカインについて聞き始めた。


「あの小さい冒険者は何者なのだ。まるで狂ったようにモンスターをなぎ倒しているが」


「ああ、あいつですか。一部の冒険者からは大斧のカインって呼ばれてる中堅冒険者ですよ。見ての通り、あの小柄な体格からは想像つかないほどの怪力で大斧をぶん回すトンデモ人間です」


「大斧のカイン……」


 カインに続いて、騎士団らと冒険者らが城門前へと陣を張り、カインが乱した敵の隊列を利用して、着実に数を減らしていった。アベルは呆れながらもカインを見逃さないようにしつつ、ギルと共に自陣営の援護に回っていた。

 いち早く敵の群れを突破したカインは城の内部へと侵入した────その瞬間、言い様のない悪寒に襲われた。不気味にも、城内に敵の姿はなく、ところどころ崩落した屋根から光が漏れるのみであった。


「何を、守ってる……?」


 警戒を強めたカインは、魔斧を構えながらじっくりと進み続けたところで、背後の城門から自陣営の味方が姿を見せ始めた。どうやら戦いを終わらせてきたらしかった。しかし、味方らにはカインの感じた悪寒はないのか、特段警戒する様子もなく、こちらへと駆け足で近寄ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る