強大なる者
「王様……ランドルフ王を知らないのか?」
「ランドルフ・ドレイク、だろ?」
「名前は知っているようだな。そう、グラントをあれだけ巨大な街に築き上げた立派なお方だ。もうかなり歳をとられているようだが、まだまだ若々しい」
「……ああ、そうなんだな」
カインは握り拳を作り、俯いて表情を隠した。
「ではダリウス様は知っているか? 王室魔導術師にして、二大魔導術師の一人と名高いお方だ」
「名前だけはな」
「ランドルフ王と宮廷学校の同期で、そこから二人でこの国を担うまでになられたそうだ。美談だろう」
「お二方とも、さぞお元気なんだろうな」
「ああ。ランドルフ王は温厚、ダリウス様は快活でよく笑うお方で、国民からの人気も厚いのだ」
「カイン、もういいでしょう。ギルさん、質問ばかりしてしまい、すみませんでした」
アベルがカインの質問攻めを制止してから、ギルへと頭を下げた。「いや、勉強熱心でなによりだ」と頷いた。カインは終始俯きながら、歩みを止めることはなかった。ギルはカインの様子を気にしながらも、先頭集団の足が止まっていることに気が付いた。遥か遠くに城が薄ら見えていたところで、先頭の更に前方に何やら緑色の巨大なモンスターが立ちふさがっていた。
人の三倍はあろう二足歩行のそれは、一つ目で見下ろしてきた。
「馬鹿な、サイクロプスだと! 道中に強力なモンスターはいないと報告にあったが……」
ギルが目を見開いていると、サイクロプスがけたたましい咆哮と共に先頭集団の数人を払い飛ばした。先頭にいたジークが幾人かの騎士団員に素早く指示を出した。
「神聖魔導が使える者は払い飛ばされた者らの治療! 皆はサイクロプスを取り囲め! ただしサイクロプスには近づくな、捕まれば握りつぶされるぞ!」
騎士団員らの陣形はみるみるうちに円形へ変化していき、暴れるサイクロプスを相手に均一な距離を保った。冒険者もそれに合わせて、陣形の後ろから弓や元素術の遠距離攻撃を繰り出した。カインら三人が先頭集団へ追いつく頃には、サイクロプスは膝から崩れ落ちていた。
「大したもんだ、サイクロプスをこんな短時間で倒すなんてな」
カインは感心した。騎士団の連携が迅速であり、普段この人数で連携を取らないような冒険者も、動きやすい環境が整えられていた。騎士団と冒険者のうち、肉体回復や守護の効果を持つ神聖魔導を使える者が、けが人を癒していた。全員の傷が癒えたところで再度城へと出発した。
しかし、平野に立つ城の敷地内に入った途端、場の空気が大きく変わったことにカインは気が付いた。サイクロプスやそれ以上に強力なモンスターからは、重たい空気が放たれる。
だが、今回はそれと明らかに違った。むしろ軽く、肌寒いような空気感、それはまさに"異質"────その言葉だけが、カインの感覚を埋め尽くした。
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