魔導書店

「アベルが使える魔導で何か良い魔導書はないか」


「ア、アベルのものでだね。確か、か、風と火の魔導が得意なんだよね。この前の"火柱"は上手く使えた?」


「ええ、おかげさまで。試し打ちなしで使えましたよ」


 ゼルギウスは「そそう、それは良かった」と返事しながら、山になった書物の中からいくつか取り出した。その中から三冊ほど選別してテーブルへと並べたゼルギウスは、それらを饒舌に説明し始めた。


「右から、"火箭かせん"、"風呼かざよび"、"火炎旋風"の魔導書だよ。"火箭"と"火炎旋風"は風と火の組み合わせですぐ使えるからアベルにぴったりなんだ。"風呼び"は僅かな呼吸からでもある程度の風魔導を作り出せる技術が書いてある。元素術はその場にある元素しか使えないから、環境に左右されない魔導は珍しいし、有用だと思うよ」


「興味深いものばかりですね」


「アベル、習得できなさそうなものはあるか」


 アベルは書物を手に取りながら首を振った。


「いえ、自分の得意な元素であれば問題ありません。時間さえかければ習得が可能です」


「よし、なら全部買うぞ! そんでその金で、ゼルギウスの奢りで飲み行こう!」


 アベルは呆れ、ゼルギウスは「はは……」と短く笑った。ただ全て買うのは冗談ではなかったようで、カインは金貨を手渡した。ゼルギウスは深々と頭を下げ、書物三冊を紐で十字に結び、持ちやすい輪っかを作ってアベルへと手渡した。


「カイン、あまり使ってはダメですよ」


「金は使わないと腐るんだよ、知ってたか?」


「どこの言葉ですか……」


「ゼルギウス、奢りは冗談だが、今度また酒場で飲もうや」


「わかった、な、なるべく行けるようにする」


 カインとアベルは店を後にすると、何やら通りが騒がしくなっていた。様子を見るとグラントの王家直属の近衛騎士団の若手らがビラを配っていた。それを一枚もらうと、近衛騎士団と有志の冒険者による合同クエストを行う旨が記載されていた。


「こりゃ一体……珍しいな」


「内容を見るに、廃墟と化した城に住み着いたモンスターの撃退ですか。報酬も悪くありませんね」


 カインはじろりと近衛騎士団を眺め見てから、大きく頷いた。


「よし、このクエスト、俺らも参加するぞ!」


「そう来ると思っていました。近衛騎士がついていれば、危険も少ないでしょうし賛成です。それに、カインの目的は他にもあるのでしょう?」


「……ま、そういうこった。そうと決まれば冒険者ギルドへ急ぐぞ!」


 カインとアベルは冒険者ギルドで受付を済ませ、集合場所であるグラントの東門へと足を運んだ。

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