57話 暗転
「あ、あれ? ジンは?」
ミコトが周囲の警戒から戻り、前に居たはずのジンの姿が見えずに辺りを見回す。
「ああ、丘の方へ走って行ったきりなんだ。視界が悪くてここからじゃ見えない」
「そろそろ行った方がいいんじゃないか? もしやられでもしてたら…」
「ケン君! ジン君の指示があるまで動いちゃダメだよ!」
「オルガナの言う通りよ。この周辺に今のところ魔物は居なかったわ。大人しく待ちましょう」
「あ、ああ…分かった」
四人が暫く待っていると、雨に打たれながらゆっくりとジンが戻ってきた。何やら目を瞑り、考えている様だ。
「どうしたんだろ、怪我でもしたのかな?」
「い、いや、ミコト。あれは鍛錬中のジンだ…」
「はぁ? どーいうことだ?」
「イメージだよ! 歩きながら瞑想してるよあの人!」
オルガナの言う通り、ジンは何か魔法のイメージを構築しているようだ。すると急に立ち止まり、両手の平を向かい合わせる。その瞬間、
バチッ! バチッ! バチチチチ!
「なっ! あれは雷!?」
「ジン、雷属性魔法は使えないってこの間…まさか、さっきの落雷を見て!?」
「イメージをもう発現するまでに練り上げるなんて……雷属性は殆どの人が使えないのに」
「雷使えるの雷帝ぐらいと思ってたぜ」
すると四人の視線に気が付いたのか、ジンは事も無げに声を上げる。
「ああ、すまない少し
「もぅ、ジン君! どこから突っ込んでいいのか分からないよ! ブリュムタイガーは!? それで今の雷は!?」
「討伐対象なら倒したよ。すまないなオルガナ。折角の火魔法の出番が無くて。すこし面倒な敵だったから、早々に倒させてもらった」
「そんなのどうでもいいよっ! で、私は今の雷魔法に興味があります!」
「もう何でもアリだなジンは…」
「うおぉぉぉぉ! 負けてらんねぇ!」
こうして依頼を無事達成したジンは、四人と共に帰り道で遭遇した魔物や魔獣を狩りながらシス村へ帰還した。ギルド支部へ依頼を報告すると、ブリュムタイガーソロ討伐の功績が認められ、ジンはAランクへ上がるポイントを獲得、あとはGランク冒険者の指導を経れば昇格出来る事になった。
明日ジョゼフの引き渡しが終わればシス村を出発、五人でドッキアへ向かう事になる。この日の夜はジンが泊っている宿に併設される食堂で打ち上げとなった。
「いやぁすげーなー
「俺も重宝してる。今後これを超える魔法には出会わないだろうな。帝都の魔法師団に行って魔法陣さえ描ければレオ達も使えるぞ?」
「帝都かぁ~、俺達じゃまだたどり着けないだろうなぁ」
「それに結構高いって初めて見た時ジンが言ってたし。ソロならではのお金回りが成せる技だよねぇ」
「でもいつか手に入れたいよね!
「だな! 別に皆が持ってる必要はねぇし! オルガナなら魔法陣もいけるだろ!」
「頑張るよ!」
「大金貨三十枚溜まるころには皆強くなってるし、気が向いたら行ってみるといいさ」
――――た、たかっ!!
◇
「ブリュムタイガーは奇襲型の魔獣だったんだ」
「奇襲型?」
「ああ、ヤツは落雷の影響で乱れた魔素を利用して、相手の魔力探知を鈍らせた上で、一撃で獲物を狩る手段を取っていた」
「雷で魔素が乱れるのか?」
「恐らくな。雷という強大な自然現象が成せる業だろう」
「それでややこしいって言ってたのか」
「でも、ある意味ジン君の雷魔法は虎さんのお陰だったりするよねー?」
「まだまだ使い物にはならないけどな」
「そうなの?」
「ああ、恐らくイメージを落雷で構築したせいだと思う。狙いが定まらないんだ」
「あ~…雷がどこに落ちるかなんて誰にも分からないしな」
そう言うとジンはもう一度両手の平を向かい合わせ、雷を再現する。
「俺が最初イメージしたのは『右手から左手に雷が落ちる』なんだ。これを応用すれば『右手から落としたい所に雷が落ちる』が簡単に出来ると思ったんだが」
「雷がまっすぐ落ちなかったって訳ね」
「そういう事だ。魔力出力を上げれば、飽和攻撃として使えなくは無いんだろうが…」
「側にいる人間まで巻き添え食うなそれ!」
「か、雷に打たれたら死んじゃうよ~」
「だな。要改善だ!」
グッと拳を握り笑うジンにつられ、皆も一様に笑う。その後も和気あいあいに食べて飲んで、夜は更けていった。
◇ ◇ ◇ ◇
帝都アルバニア。クルドヘイム城内、皇帝ウィンザルフの
「陛下。緊急の報告にございます」
「なんだ」
「極西のジオルディーネ軍が北上、ミトレス連邦盟主国である獣王国ラクリに進軍を開始いたしました。途中のピクリアに戦力はございませんので素通りとなるでしょう。ラクリが落ちるとなれば…」
「残すはドルムンドもしくはホワイトリムか。あの戦狂いの蛮王め。叔父上は?」
「ピレウス王は暫く続いていたドラゴニアとの戦は一時停戦し、ジオルディーネの戦況を見守るようです」
「賢明だな。そもそもピレウスにドラゴニアは落とせない」
「ガーランドの増兵は行いますか?」
「当然だ。ピクリアを除く連邦の他の国の動向にも注意しろ。戦火が広がるとなれば難民がこちらへ流れてくるだろう。国境沿いの街村へ、難民は手厚く保護しろと伝えろ。難民の支援は帝国の財を持って成す。後々この恩が大きな果実を生むともな。亜人国を武力で従えるなど愚の骨頂。ジオルディーネの馬鹿共に、亜人を従えるにはどうすればよいか分からせてくれる」
「御意」
亜人と呼ばれる人間以外が治める七つの国で構成されるミトレス連邦。そのミトレス連邦には、
戦を好まない
様々な優れた技術を持つ
個の力を崇高とする
長命な
広大な湿地を国土とする
雪と氷に覆われた
帝国と国境を接するのはドルムンド、ホワイトリム、ドラゴニアの三国であり、獣王国ラクリに接するドルムンド、エーデルタクト、ホワイトリムのいずれかがラクリの次に狙われると、帝国はジオルディーネ王国と隣接する事になる。
これはいつ戦争になってもおかしくない事態であり、今の緊張感は推し量るべきであろう。
「魔物共が増えているこのタイミングで新たな戦を仕掛けるか…蛮王め何を求める。亜人の力、国土、または宝か」
ウィンザルフに蛮王と呼び捨てられる、このジオルディーネ王国国王エンス・ハーン・ジオルディーネ。先祖は盗賊であり、周辺の有力者や土豪をまとめ上げて西大陸西部に覇を唱えるにまで至った人物である。代を重ねるごとにその領土を広げ、今や帝国の隣国にまで牙を向うとしている。
ジオルディーネ王国の南部は未だに有力者の割拠が続いており、本来なら南を制圧してから北に向かうものと思われていたが、突如北に軍を向けたジオルディーネ王国の思惑は未だ分からない。
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