第83話 キスの日記念SS
作者による二次創作的ショートショートです
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「あ、あの」
とある日。
エデルは顔を赤らめながらオルティウスに話しかけた。
心臓がバクバクと音を立てている。これから口にする内容を頭の中で反芻したエデルは、それだけで気を失いそうなほど緊張している。
一方のオルティウスは平素の通り、精悍な眼差しをこちらに向ける。
「どうした?」
「ええと……。きょ、今日は、キ、キ、キスの日なのだそうです」
若干口籠りながらも、エデルは何とか言った。
ああでも、肝心の何をしたいのかを伝えていない。
「!」
「ですから……。オルティウス様にキスをさせていただきたく……」
何とか言い終え、オルティウスを見上げた。
彼は微動だにせずにこちらを見下ろしている。
どうしよう。女の方からキスをするなどと、大胆すぎただろうか。
「……ダメでしょうか?」
「……ダメではないが」
視線を揺らめかせ、エデルは尋ねた。
すると僅かに肩を揺らしながらオルティウスが返答を寄越した。
エデルはホッと一息吐いて、一歩オルティウスへと近付いた。
「そ、それでは僭越ながらキスをさせていただきます」
宣言をして踵を上げた。
オルティウスとエデルの間には身長差があるのだ。上背のある彼へ近付くには背伸びをしなければいけない。
そういえば、いつもキスをする時はオルティウスが背を丸めてくれていることに、今更ながら気がついた。
そのことに彼も思い至ったのだろう。
エデルの両足が宙に浮いた。
オルティウスに抱きかかえられていた。
一気に彼との距離が近くなる。
「この方がキスをしやすいだろう?」
「……は、はい」
エデルはこくりと頷いた。
触れられた箇所が熱い。
エデルは改めてオルティウスの顔を見つめた。
一見すると冷厳で近寄りがたい雰囲気を纏っているいるが、その瞳は澄んでいて静かで優しい。そのことを結婚式の夜にエデルは知った。
キスの日というのだから、やはり彼の唇にするのものだろうか。
いつも彼からしてもらうばかりで、自分から触れたことはなかった。
そのように思いながら見つめれば、何やらとっても気恥ずかしくて、あとほんのわずかな距離を進むことができない。
「どうした。エデル」
どこか楽しそうにオルティウスが尋ねる。
「あ、あの……。できましたら、目を閉じていただけると……」
見つめられていては恥ずかしくてこれ以上進めそうもない。
すみません、と恐縮しきりで願いを口にする。
オルティウスは、仕方がない、と言うことを聞いてくれた。
ほんの少しだけ残念そうではあったが。
目を閉じたオルティウスに見惚れたエデルは、すぐに我に返り、今度こそ目的を遂行するのだ、と息を吸い込んだ。
触れたのはほんの一瞬。
いつもとは逆で、自分から彼と唇を重ねた。
その時、世界から音が消えたような心地になった。
彼から離れた瞬間、再び心臓が音を立てて騒ぎだす。
「もう終いか?」
「え?」
瞳を開いたオルティウスと目が合う。
「今日はキスの日なのだろう? では、次は俺の番だ」
「えっ?」
再び唇に温かいものが触れた。
もう一度。
ふわりと重ねて、離れて。
それを幾度も繰り返す。
オルティウスがエデルを抱えたまま椅子に腰を落とした。
彼の膝の上で、エデルは両腕の中に閉じ込められる。
「もっと大胆なキスを仕掛けてくるのかと期待した」
「が……頑張ります」
それから二人は互いの唇同士を合わせ、熱を分け与え続けた。
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