第50話 シーカースクールの食堂にて 乙女VSカロリー
没ネタ公開。あくまで没ネタとしてお楽しみください。
ある日の昼休み。
大和、勇雄、蜜也、宇兎、蕾愛、LIA、アメリアは食堂で同じテーブルについていた。
シーカースクールの食堂は食べ放題で、それぞれがMRウィンドウのメニュー表から好きな料理を注文すれば、ドローンが運んできてくれる。
すると、マグロ丼を食べる大和の向かい側で、パスタを食べていた宇兎がちっちゃな声を上げた。
「あ、今日の日替わりデザート、ブリュレプリンタルトだ」
声のトーンから、大和は彼女の興味を感じ取る。
「好きなのか?」
「うん、でもどうしようかな?」
視線を泳がせる宇兎に、大和は首を傾げた。
「せっかく食べ放題なんだから注文したらどうだ?」
「いや、でもカロリーが、ね」
「カロリーなんか気にしていたらスイーツがまずくなるわよ。あたしはふたつ頼むわ」
言いながら、大和の隣に座る蕾愛が自分のMRウィンドウをタップしている。
――お前は食いすぎだろ。
富裕層でいいところの生まれのはずなのに、乱雑に食べる蕾愛に心の中でツッコんだ。
一方で宇兎は食べ方が上品で、つい可愛いと思ってしまう。
「ボクはハニーのハチミツがけで食べようかな」
LIAが淫らな舌使いで唇の周りをなめると、隣に座る蜜也が困り顔になった。
「それは作ってくれた人に失礼なんじゃないかな?」
「え~、ハニーの味がいいなぁ♪」
小悪魔めいた口調で、LIAは蜜也を抱き寄せた。体を硬くして赤面する蜜也はあとで、得意のハチ魔術を使わされることだろう。
そんなLIAの隣で、宇兎は唇を真一文字にして悩み始めた。
「待って、いまカロリー計算するから。え~っと、夜のおやつを抜いて、午後の練習をちょっと多めにして……」
――可愛いな。
体重を気にして、一生懸命カロリー計算をしながら甘味の誘惑と戦う姿に、なんだかすごく【女の子】を感じてしまう。
いまどき、こんなことを言えば男女差別だと言われるので口には出さないが、大和は昔の人が連想するステレオタイプの女子っぽい女子に、可愛さを感じるタチだった。
「うん、なんとかなる。じゃ、ブリュレプリンタルト注文」
「ではワタクシはブリュレプリンタルトとチョコミルフィーユを頼みますわ」
「えっ? チョコミルフィーユなんてあったっけ?」
「今日からの新メニューらしいですわ」
LIAとは逆隣に座るアメリアのMRウィンドウを目にして、宇兎は目を白黒させた。
「ど、どうしよう、それも食べたい。けどこれ以上は、残したら失礼だし……」
日本人は小食ですわね、などとうそぶくアメリアの隣ですっかり弱り果ててしまう宇兎をほうっておけなくて、大和は優しく助け船を出した。
「なら俺が半分食べようか?」
宇兎の顔が、ぱっと明るくなった。
「ほんと? それならう~んと、うん、だいじょうぶ、じゃあチョコミルフィーユも頼んじゃうね♪ ありがとう、大和」
「どういたしまして」
――やっぱり可愛いなぁ。
宇兎を笑顔にできたことが嬉しくて、宇兎に笑顔を向けられることが嬉しくて、大和はとても気分が良かった。
その大和の隣で、勇雄が六枚目の大皿を重ねた。
ドローンからあらたに豚の生姜焼きを受け取り、華麗な箸さばきで口の中に処理していく。
宇兎の目が、一瞬で喜びから驚愕に転じた。
「へ……勇雄……まだ食べるの?」
「うむ、一日最低でも10万キロカロリー摂取しなければならないからな」
愕然とした宇兎に、大和は同情の念を禁じ得なかった。
「な、なんでそんなに食べるの?」
「魔力の無い私は運動量に比例してカロリーを消耗する上に、肉体改造でフィジカルを鍛えるしかない。そしてハードトレーニングの後に回復魔術を使えば筋骨は強くなるが、摂取している栄養が多い程に効果は上がるのだ」
空手をベースにした実戦格闘技、天手の型全てを毎日左右1000本ずつ、時間の密度を考慮すれば一日30時間分のトレーニングをする勇雄の運動量と肉体成長を支えるもの、それは常人離れした食事量と消化吸収能力だ。
勇雄は至極真面目なのだが、宇兎は涙目で震えていた。
彼女の心中を察して、大和はさっきまでの三倍も同情した。
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