第16話 昨日の敵は今日の友!

 秋雨が、屋敷の外に飛び出すと、内米がスクーターにまたがった格好でぎょっとしている。


「内米!?」

「どうした浮雲そんな慌てて!?」

「お前こそ、夏休み初日のこんな朝っぱらから何してんだよ!?」


 途端に、内込は気まずそうに頭をかいた。


「いや、そのぉ、昨日お前に謝ったらスッキリしたんだけどよくよく考えたら生徒会長もあの場にいたんだよなって、そしたら生徒会長にも謝らないと筋が通らない気がして……ていうかなんでお前生徒会長の家から出てくるんだ?」


 ――意外に律儀だな……。


「て、感心してる場合じゃない。昨日から先輩の家で合宿中なんだよ! それよりその先輩が大変だ! 街にアポリアの大軍が現れた! 先輩がいる場所にだ!」

「はぁっ!? んだよそれ!?」


 驚愕の怒声を上げる内込に、秋雨は背を向けた。


「じゃあ俺は急ぐから!」

「いや待てって浮雲!」

「なんだよ!? ッ?」


 突然投げ渡されたヘルメットを受け止める。

 顔を上げると、内込が強気な笑みを作っていた。


「後ろに乗ってけ!」


 最大魔力で足を強化しながら現地に行った方が速いかもしれない。

 けれど、それでは現地についたところで魔力切れだ。

 ここは、スクーターで運んでもらった方がベストだろう。


「おう! 頼んだ!」


 秋雨はヘルメットをかぶり、あご紐のジョイントをはめた。



   ◆



 20分後。

 秋雨たちは道路を法定速度ギリギリで飛ばし、現地へ向かっていた。

 道路はガラガラなので実に走りやすかった。

 この状況で現場へ行こうとする馬鹿はいないし、現場の車両は全て非難済みなのだろう。


「よし、そろそろ着くぞ!」


 アクセルを握ってエンジンをふかしながら、内込は声を張り上げた。


「おう、ありがとうな内込。ていうか今更だけど、お前免許あるのか?」

「無免だよ! これはアニキのだ!」

「いいのかよそれ……」

「俺のゴツイ体格と顔で年齢確認してくる奴なんかいねぇよ。それより、そこを曲がったところだ!」


 都合よく青く点灯した信号機を大きく右に曲がり、秋雨と内込は目を剥いた。

 スクランブル交差点は、黒いマネキンで埋め尽くされていた。


 どこまで続いているのかもわからない黒い群衆が、秋雨の登場で一斉に振り返った。

 いっそ、壮観ですらある絶望的状況に、秋雨は苦笑いを浮かべながら腹をくくった。


「やるしかねぇみたいだな」


 言って、秋雨がスクーターから降りてヘルメットを外そうとすると、内込が手で制した。


「待てよ浮雲、こいつらはオレが引きつける。その間にお前は空を飛んでけ。飛べるんだろ?」


 スクーターから降りて前に進み出る内込は、まるで戦場へおもむく兵士のような危うさと頼もしさがあった。


「いいのかよ? お前の力はあいつらに――」


 効かない、と言おうとするも、内込の言葉に遮られた。


「あの時は本気じゃなかったんだよ。敵の正体もわからなかったしな。でも、あいつらはゴキブリみてぇなもんなんだろ? なら構わねぇ、最大出力でぶっ潰してやるよ!」


 強がるように声を荒立てる内込に、秋雨は罪悪感を感じて託した。


「……悪いな内込、押し付けちまって」

「はんっ、何言ってんだよ。逆だ逆」

「え?」

「オレはなぁ、ずっと待ち望んでいたんだよ。こういうシチュエーションをなぁっ!」


 両肩をいからせ、内込が左右の拳を突き出すと一度に四体のアポリアが吹っ飛んだ。

 まるで、見えない巨人の拳に殴打された仲間に気を取られるのは一瞬。

 アポリアたちは一斉に歩みを進め、一歩ずつ行軍を始めた。


「オレもやばくなったら逃げる! さっさと行け!」

「ああ。頼んだぜ!」

「頼まれた!」


 秋雨はカカトと両手からヴォルスターを噴射させ、一気に空へ旅立った。

 背後からは、早くも衝撃波の音が轟いた。


 ――まさか、内込と共闘する日がくるなんてな。


 数奇な運命に驚きながら、秋雨は草壁グループ本社ビルを目指した。

 場所は事前に確認済だ。


 全面ガラス張りのひときわ目立つビルを見つけると、秋雨は周囲を旋回した。


 ビルを包囲するアポリアたちは一階のガラスを叩き壊そうと殴りつけている。

 秋雨は建築に詳しくないが、こうしたビルのガラスは全て滅多なことでは割れない強化ガラスだ。


 そう簡単に突破はされないだろう。

 それでも、一部の場所には穴が空き、そこからアポリアたちが次々侵入し始めている。


「あそこだ!」


 アポリアたちの侵入口のひとつに狙いを定めると、秋雨は全身に爆炎をまといながら落下した。


「メテオストライク!」


 秋雨が着地すると、周辺のアポリアたちはねこそぎ炎にまかれながらぶっ飛んだ。

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