β036 無への帰還

 CMAβに頼んで、沖悠飛くんと僕を飛ばせて貰った。

 クレーターから出ると、辺りをよく見通せて、すっきりとした。

 僕も又、想像してしまうが、クレーターにいた生命体は、もしかしたら、そこからは出ないのかも知れない。

 これも想像だが、他のクレーターには、ワン、ワン言う生命体がいるのかも知れない。

 宇宙は、不思議のかたまりだ。


「葛葉創くん、妄想したら、めっだよ。ぺしする」


 CMAβが、僕にエールを送ってくれた。

 マルクウ深層部へのゲートをくぐるとき、剛腕だったしな。


「すみません。勘弁してください。怪力のCMAβから、ぺしされると腕がもげるかも知れません。多分いたーい」


 摩天楼へ、綾織さんと僕以外は、沖悠飛くんを乗せた。

 CMAβとネココちゃんも健在だ。

 沖悠飛くん用のシートがなかったので、僕は、レイシイとケビクマミの実をよけて、適当に椅子らしきものとシートベルトになるものを作って、ジャイロに入れた。

 こうして、出発の準備は整った。


「OK? 出発するよ」


 僕の合図に、各々身を引き締める。


「無茶な運転をしないでください」


 ん?

 無茶などしていない、安全運転だが。

 ああ、た、確かに不時着とかしてしまったしな。

 優しくて、可愛いなあ、綾織さん。

 やはり、話し方が変わった。


「綾織さん……。はい。では、カウントダウンを続けます」


 一つ一つ、この動植物でできた摩天楼の特殊な計器を確認する。

 腹ばいのまま、発進だ。

 動植物化学反応とでも言えばいいのか。

 未知で仕方がないが、お付き合いするしかないようだ。


「十、九、八、七」


 そこまでカウントダウンしてから、沖悠飛くんから横槍を入れられた。


「待て、俺は一緒でいいのか? 随分と迷惑を掛けたが。そんな俺だが……」


 おお、沖悠飛くんが心を入れ替えたのか?

 エーデルワイスを狙う邪心や、綾織さんを姑息に求める気持ちを払拭できたのか。

 沖悠飛くんは、元々禰宜だものな。

 あ、ネギと言えば、リュウグウノツカイ大惑星ネギ元首はお亡くなりになったようだな。

 ミー、ミーと騒いでいたから。

 国家があったようだが、様々に冷戦を破って先制攻撃をしたせいか、国家と国民が粉々になってしまったのかも知れない。


「僕は、冥利が悪いのが嫌なんだよ。一緒に、空中庭園国へ向かおう。辿り着けることを願おう」


 然りと、カウントダウンを続ける。


「六、五、四、三、二、一、ゴー……」


 摩天楼は、タッチパネルで、僕がどう操舵したらいいのかを教えてくれる。

 主力エンジン切り替えをする為、青から赤へ大きくスライドさせる。

 エンジンを真後ろへ射出するのではなく、この不思議な摩天楼は、腹側から下方へ向けてできる。

 上昇した後、姿勢制御に気を付けて、ジャイロの中をブランコ状に揺れながら、エンジンを後方へ切り替え、小さな大惑星リュウグウノツカイを後にした。


 僕には、小さく、別れのミーが聞こえた。


 ◇◇◇


 先頃見た航海図によれば、超重力のブラックホールがある可能性が高い航路だった。

 宇宙濃霧がセイレーンの如く惑わすので、恐ろしいと思ったから、二時の方角から大わらわで逃げ去ったものだった。

 摩天楼にホールが開いており、魚眼レンズが付いていたので、そこから、外の様子がどうなっているか、景色を見て欲しいと、綾織さんと沖悠飛くんに頼んだ。


 ◇◇◇


 ――そろそろ恋しくなったのか、見えもしない景色を僕の脳裏が想像する。

 あれは、惑星アースに似ているな。

 大気圏があって、見つけるのは難しいが、エレジーやソレイユルネ・コロニーに、メガロポリスのコロニー、エーデルワイスがあるのだろうな。


 その大気圏の上に、もし、上から見たらそうかと思える空中庭園国が見える。

 ドームハウスやチューブが、都市部に当たる空中都市βに多く見出だせる。

 僕の住んでいたD区―02まで見えたら嬉しいのだが、空中庭園国そのものが一つの半球に収まっている。

 空中庭園国の端がブラックホールみたいになっているのは、デマかな。

 第一、今日はあの日のように、雪が舞っている。

 雪映えの空中庭園国は、僕にとって、胸が締め付けられるようだ……。

 ひなを思い出す。

 僕への贈り物を落して消えてしまったひな。

 パーソナルフォンを落してしまったひな。

 残業してすれ違ったことを悔いる。

 僕は、これから、どう反省して償ったらいいのだろうか。

 そんなに笑顔でいないでくれ、ひな……!

 こんなことは、残念ながら妄想だ――。


 ◇◇◇


「どうかしましたか? 葛葉様」


 こちらの方を気に掛けて向いてくれる綾織さんは、少し顔色が悪い。

 旅で、疲れたのだろうか?

 もしも、空中庭園国に帰還できたら、美味しい物を食べよう。


「いや、原点回帰さ。妹のひなのこと」


 ぱっぱっと五角形のパネルを手前に浮かべる。


「この操舵パネル一つ、五角形のグリーンパネルは、救命艇の信号専用にしているのだよ。僕が惑星アースを発つ際に、救命艇の信号を受け取っていながら、断ってしまった。責任を感じている」


 僕はひとしきり噛みしめた後、これからの恋愛や結婚に当たって、決意した。

 恋こがれて落ちるよりも、僕の一生を僕は愛する人にささげたいと。

 僕は、恋愛結婚にもっと甘いものを感じていた。

 様々に冒険をしたお陰で、考え方も幾分か変わったのだろう。


 僕は、あなたを愛しています。

 愛してやまないのです。

 どのような障害があっても、僕の愛は、無にはならない。

 一か零なら、必ず一です。

 綾織志惟真さん……。


 ゴゴゴゴゴ……。

 摩天楼は運命を変える時空の旅をさせてくれた。


 僕は、無から旅立った。

 そして、今――。



 ――無への帰還を果たす。

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