第24話






「は……ははっ……はははっ……。マジかよ……。クイーンコカトリスに認められるだなんて馬鹿げてる……。あり得ねぇって、普通……。ははっ……はははっ……。」


 ユージンさんは腰が抜けて地面に座り込みながら、クイーンコカトリスが去っていった空を見上げて空笑いをしていた。それから、オレの方に視線を向ける。


「……オレの完敗だ。クイーンコカトリスに認められる人間なんてあんた以外いねぇよ。そんな奴に勝負を挑んだオレが馬鹿だった。」


「え?いや……あの、これは偶然っていうか……。」


 クイーンコカトリスに認められたのは偶然だ。本当に偶然なのだ。


 ただ、オレはクイーンコカトリスからの攻撃を回避するために、手近にあったコカトリスの卵を手に持っただけなのだ。そのコカトリスの卵にクイーンコカトリスが自分から突っ込んだだけのこと。むしろ、そんなことをして逆にクイーンコカトリスに怒られるのではないかと思っていたのだけど……。


「……偶然でクイーンコカトリスがあんたを認めるかよ。そんなバカなことあってたまるかっ。あんたはクイーンコカトリスに認められた人間だって堂々と威張ってればいいんだよ。謙遜されると逆にムカつく。」


「は、ははは……。」


「それにオレにはコカトリスの卵を割ることができなかったしな。あんたすっげー冒険者だと思うんだけど。オレに言われたかないけど、料理人なんかじゃなく冒険者登録すべきだ。もったいねぇ。」


「んー。でも、オレは王宮料理人になっていろんな魔物の食材で美味しい料理を作りたいんだ。それがオレの夢なんだ。」


 ユージンさんにも冒険者が向いていると言われてしまった。


 ……オレ、そんなに料理人に向いてないのかな?


 ちょっとだけ不安になる。


「なぁにしけた顔してるのよっ!リューニャはクイーンコカトリスにも認められるくらいのすごい人間ってことよ!それに、冒険者になれば珍しい魔物の食材も見つけることができるかもしれないわよ!それに冒険者になれば冒険者ギルドに登録している冒険者にしか許可されていない迷宮にだって入ることができるわよ。まだ誰も到達していない階層に行けば、珍しい食材だってあるかもしれないの。冒険者になったって王宮料理人になれないわけじゃないわ。だから、リューニャ、冒険者になりなさいっ!そして、私とパーティーを組みましょう!!」


 ちょっとだけ落ち込んでいたら、ここぞとばかりにシラネ様に慰められた。そして、オレに冒険者になることを進めてくる。


 ……そう言えば、迷宮ってのがあったんだっけ?冒険者にしか入れないってのは知らなかった。っていうか、そんな危険なところに潜り込むことすら考えていなかったけど。


 ……珍しい食材が手に入るかも、か。ちょっと心が惹かれるかもしれない。


「ね!リューニャ!!冒険者になろう!」


「いい考えだ。シラネ。オレもリューニャに冒険者になってもらいたい。クイーンコカトリスにも認められるくらいの才能を持っているんだ。是非、冒険者としても活躍して欲しい。」


 ギルドマスターも冒険者になるようにすすめてくる。


 冒険者になっても、王宮料理人になることも可能。


 だったら、冒険者になっていろんな食材を探すのもいいかもしんない。


 そして、美味しい料理をいっぱい作る王宮料理人に、オレはなりたい。


「うん。オレ、冒険者になるよ。そして、珍しい食材をいっぱい探すんだ。」


 オレは、そう決意した。


 思い返してみれば、王宮料理人になりたくて修行を続けてきたけど、これと言った成果がでていないのも事実だ。


 それに、ここで入手できる魔物の食材も限られている。冒険者として旅に出て食材を探すのは意外とありなのかもしれない。そう思い至った。


「そうよ!その意気よ!!じゃあ、私とリューニャでパーティーを結成ね!リューニャの冒険者登録が完了したらすぐにパーティーの手続きをしなきゃね!!」


 シラネ様は上機嫌で言う。シラネ様に尻尾が生えていたらぴょんぴょん跳ねていそうなくらいだ。


 っていうか。


「え?なんでオレ、シラネ様とパーティー組むことになってるの??」


「だって、リューニャってば冒険者のことなぁんにも知らないでしょ?私がリューニャとパーティーを組んで教えてあげる!」


「え……冒険者になるってことは覚えることがいっぱいあるのか?」


「そういっぱいあるわよ!だから、リューニャは私とパーティーを組むのよ!これは決定事項よ。」


 シラネ様はそう言って、オレの右腕に満面の笑顔で抱きついてきた。シラネ様の薄い胸がオレの肘に当たる。


「ぴぃーーー!!ぴぃーーーー!!」


「むっ!シラネ!リューニャに引っ付いていいのは妾だけなのじゃ!離れるのじゃ!!」


 シラネ様がオレに抱きつくと、ぴぃちゃんとトリスから抗議の声があがった。二人(?)とも、シラネ様を押しのけるようにオレに引っ付いてくる。トリスのマシュマロみたいに柔らかい胸がオレの腕に当たった。


 ……やっぱりシラネ様とトリスを比べると、どうしてもシラネ様って……。


 オレは、そっとシラネ様に視線を移す。


「ちょっと!!あなたたちは引っ込んでなさいっ!あなたたちは魔物でしょう!!」


「独り占めは良くないのじゃ!それに、人間でも魔物でも関係ないのじゃ。妾はリューニャのことが気に入っておる。ただ、それだけのことじゃ。ぴぃちゃんもそうであろう?」


「ぴぃっ!ぴぃっ!!」


 トリスの言葉に同調するように、ぴぃちゃんが頷く。


 それを見て、更にシラネ様のイライラ度が上昇する。


「でも、冒険者としては私の方が経験値が上なんだからっ!!あなたたちには負けないわっ!!」


 シラネ様はどんどんヒートアップしてくる。このままだと、トリスやぴぃちゃんに攻撃魔法を放ちかねない。そう思ってシラネ様を止めようとする。この場で攻撃魔法でも放たれてしまったら、トリスやぴぃちゃんだけではなく他の冒険者たちにも被害が出かねない。


「ま、まあ。シラネ様。落ち着いて落ち着いて。」


「ねえ!リューニャは私と一緒に行くでしょう!一緒にいてもいいでしょう!リューニャは私が必要よね?ねえ、お願いよ。必要だと言って。攻撃魔法が使えない私でも必要だと言ってよ。ねえ、お願いよ。」


「えっ……。ちょ……し、シラネ様っ!?」


 シラネ様は攻撃魔法を放つどころか、泣き出してその場にペタンッと座り込んでしまった。


 プライドが高く我儘なきらいがあるシラネ様だから、相手を攻撃するようなことがあっても、まさかシラネ様が泣きだすとは思ってもみなかったオレは盛大に慌てた。


 トリスもぴぃちゃんもシラネ様が泣きだすとは思ってもみなかったようで、こちらも慌ててオレから離れると、シラネ様を見てオロオロと狼狽えだす。


 ……魔物であるトリスやぴぃちゃんが人間であるシラネ様が泣いているのを見て取り乱すのも不思議な光景である。そして、シラネ様が攻撃魔法を使えないのも、オレにとっては衝撃的だった。


 そう言えば、シラネ様に出会った時も窮地に陥っていたのに、回復魔法しかかけていなかったなと思い出す。


「えっと……オレ、見習い料理人だし、冒険者になったとしてもシラネ様の足手まといにしかならないかと思うんだけど、そんなオレでもシラネ様と一緒にいてもいいのかな?」


「……いいに、決まってるじゃないっ!」


 オレはシラネ様と視線を合わせるようにして屈みこむ。


 オレでもいいのかとシラネ様に問いかけると、シラネ様は涙を拭いながら、そっぽを向いて照れ臭そうに叫んだ。


 ……あれ?もしかして、シラネ様って可愛い?
















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