第12話



「リューニャは、規格外だな・・・。」


「奇遇ね。私もそう思うわ・・・。」


「妾もじゃ。まさか、リューニャが天使の楽園に行ったことがあるとはのぉ。」


師匠も、シラネ様も、トリスも言うことがひどい。オレのどこが規格外だというのか。オレはただの見習い料理人なのに。

しかも、何年経っても王宮料理人になれないような見習い料理人だ。オレが規格外なわけがない。

オレが規格外だったら、もうすでにオレは王宮料理人になっていることだろう。


「って、トリスどこに行ってたんだ?」


「ふむ。客人が来たようじゃから隠れておったのじゃ。さすがに裸で客人の前に出たらまずいのであろう?リューニャのことを考えて隠れておったのじゃが・・・。でてきてもよかったであろうか?」


いつの間にかトリスが会話に入ってきた。どこに行っていたのかと訊いてみると隠れていたという。

確かに。シラネ様の服じゃ嫌だと裸でいたからなぁ。結構トリスってば気が利くではないか。

それにしてもシラネ様も素早いな。

オレに気づかれることなく、トリスに服を渡しただなんて・・・。

ん?

でも、シラネ様はここに来たときにはまだ両手に袋を持っていたよな。

あ、あれ?

もしかして、オレがシラネ様と話している間にこっそりトリスがここに来て着替えを持って行ってたのか。

恐るべし。トリス。

全然気配を感じなかったよ。


「・・・リューニャ?裸とはこれいかに?」


「あ・・・。」


トリスとオレの会話を聞いていたらしい師匠がこめかみをヒクヒクと動かしながらオレに訊ねてきた。

顔は笑っているけれども低い声と全然笑っていない目が、師匠の怒りの大きさを伝えているようだ。


「いや。これにはふかぁ~い訳がありまして・・・。」


オレは師匠にトリスとシラネ様に会った経緯を事細かく話すことになってしまった。

そして、その全てを聞いた師匠はその場で頭を抱え込んでしまった。


「・・・まさか、コカトリスが人化するだなんて・・・。まさか、聖女様に似ていると思っていたら本物の聖女様だったなんて・・・。」


師匠は肩を落としたまま、オレの家を出て行った。きっと、お店の開店準備で忙しいのだろう。

お客様を迎えるまでにはいろいろと準備が必要だから。でも、師匠とっても疲れているように見えたな。

オレの家を出るときは、心なしか身体が左右に揺れていたような気がする。

もしかして、仕事が忙しいのかな。

確かに、元王宮料理人というだけあって、師匠の料理はどれもこれも一級品の料理ばかりだ。

見た目も味も食材も一級品だ。

それだけに、師匠の料理を食べたいと足を運んでくるお客の数は多い。時々は休んでいるようだが、それでもやはり体力的にキツいのかもしれない。

オレも師匠の弟子として、空いている時間は師匠の手伝いをした方がよさそうだ。

まあ、今日はシラネ様との先約があるから、シラネ様の用事が終わったら師匠のところに行ってみようかな。


★★★



「リューニャ、明日、天使の楽園に連れて行ってよ。」


「うむ。妾も行ってみたいのじゃ。」


「ん?いいよ。」


うむ。師匠のところに手伝いに行こうと思ったが、明日も予定が入ってしまった。

ま、いっか。

師匠のことは気になるけれどもコカトリスの卵とバッファモーのミルクを使った料理を食べたのだから、疲れはすぐに癒えるだろう。きっと。


「どんなところなのかしら。天使の楽園って。」


「美味しいものがいっぱい実っていると聞いたことがあるのじゃ。楽しみなのじゃ。」


「そうなのか?まあ、確かに珍しい食材はいっぱいあったなぁ。っていうか、シラネ様とトリスも天使の楽園に入れるの?さっきの話を聞いていると魔族を倒した人間は入れないとか・・・。」


「そんなの行ってみないとわからないじゃない。」


「そうじゃのぉ。行ってみて駄目だったら諦めるのじゃ。」


二人とも一度は天使の楽園に行ってみたいらしい。条件は知っているものの、それでもオレについていけばもしかしたら天使の楽園に入れるかもと期待しているみたいだ。

オレも本当に入れないのかは気になるところだから二人を止める気はない。


「ちょっと天使の楽園の話を聞いて、脱線しちゃったけど、ギルドに行くわよ。いいわね、リューニャ。」


「はいはい。」


「妾も行くのじゃ。」


やっぱり行くのね。ギルド。

天使の楽園の話になったからギルドのことなんて忘れていると思ったが、どうやらそうでもないらしい。

ま、いっか。

ギルドに行ってステータスを確認するだけだしね。





★★★



「ここがギルドよ。」


シラネ様はそう言ってひときわ大きな建物を指さした。ってか、オレずっとこの街に住んでいるんだからギルドの場所くらい知ってるんだけど。

まあ、入ったことはないけどね。だって、オレは見習い料理人だからギルドには用事がないわけだし。


「ほぉ。なにやら活気に満ちておるのぉ。」


トリスはそう言って目を細めながらギルドの入り口を見つめている。興味があるようだ。

番いになるような強い男を捜しているのだろうか。

オレなんかを強いと勘違いして番いにすると言っているトリスのことだ。ここで、強い冒険者を見つけたらそいつを番いにすると言い出すんだろうな。

そう思ったらなんだか少し寂しいような気がした。

トリスはオレの番いじゃないのに。


「冒険者は人気職だからね。一流の冒険者になれば一生生活に困ることはないわよ。」


オレ達はシラネ様の後についてギルドに足を踏み入れたのだった。

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