憧憬投影 ー英雄の力を使い、英雄の道を切り開くー
カイザ
プロローグ 少年の渇望
第1話 憧れと現実
英雄になりたい。
そう思っていたけど、そう簡単になれるものじゃないと今改めて実感している。
「うっ……。」
この世界では最弱とも呼ばれているゴブリンの一体にさえ苦戦を強いられてしまった。
おかげで僕の左肩は外れ、右足は負傷し、足はずるずる引きずりながら歩き、額には棍棒に殴られて出来た痣と転んでできた切り傷で血が流れている。
やっぱり、英雄というのは、才能ある者しかなれないものだろうか?
「痛てっ……。」
力が抜けてその場に崩れ落ちる。
右手に持っていたハンターナイフを離し、前にあった水溜りに近づき、自分の顔を確認する。
本当、酷い顔だな。
痣だらけ。血だらけ。僕の青い目からは涙が溢れている。
英雄になりたい。
–––––でも、僕は英雄にはなれないみたいだ。
***
王都キングラム。
この町には依頼が多く集まると言う理由で冒険者がよそから多くやって来て仕事を探す。
僕もそうだ。田舎からわざわざやって来て、冒険者になった。
依頼をどんどんこなしていき、良い仲間と出会い、やがて凶悪な魔物を撃ち倒し、英雄のような存在になれると思っていた。
でも現実は違う。
僕はなんとか自分の家にたどり着き、扉を開けるとその場に倒れ込む。それでも僕は床を這いながら移動し、救急箱を掴む。
「確か、回復ポーションがまだ残ってたはず………。」
箱に手を突っ込み、瓶を手探りで探していく。
「あった」
瓶を取り出して名前を確認する。
よし、ちゃんと回復と書かれている。
僕は瓶の蓋を開けて、中に入っていた液体を全て飲み干す。
すると体の痛みは引いていき、傷も治っていく。
動けるようになり、ゆっくりと立ち上がった僕は机にあったとある写真を手に取る。
僕がキングラムに来たのは冒険者になりたかったのとは別にもう一つの理由がある。
それは5年に僕達がいた村から旅立った幼馴染に出会うため。
その幼馴染の名前はエリス=アスタリア。
僕が持っている写真に写っている少女だ。
金髪で赤い瞳。性格は明るく、よく僕と一緒に遊んでくれた。正直に言うと僕はエリスちゃんの事が好きだ。それは5年が経った今でも変わる事無く、この気持ちを原動力の一つとしてなんとか王都までやって来た。
王都に来て四ヶ月が経ったが未だにエリスちゃんを見つける事は出来ていない。見つけたとしても、エリスちゃんは僕の事を覚えているだろうか?
「……考えるな」
不安を払うように頭をぶんぶん振り、僕は写真を置いて、再び外に出る。依頼の達成をまだ報告していないからだ。
と言ってもたかがゴブリン一体。報酬は期待出来るほどではないが。
僕はゴブリンを倒した証拠の写真を持ち、『冒険者窓口』へ向かう。
「あっ、アレス君。こんにちは!」
冒険者窓口に入り僕を迎えてくれた少女はアシア=アルゴス。金の瞳に栗色のポニーテール。服装は青と白を合わせた冒険者窓口の制服を着ている。
「こんにちは。アシアさん。」
冒険者窓口で働いている人達は複数の冒険者の担当になってサポートをしたり、依頼の達成を確認し、報酬を渡すのが主な仕事らしい。
アシアさんは僕の専属のサポーターと言う事になっている。
何故かと言うと、以前魔物に襲われているアシアさんを偶然助けた事がきっかけで、何かお礼をしたいと言う事で、専属サポーターになってもらっているという事だ。
「依頼を達成して来ました。」
僕は写真をアシアさんに見せる。
「–––––うん。依頼達成を確認しました。アレス君。そこの椅子に座って待ってて。報酬を持ってくるから。」
「はい。……あっ、アシアさん。ステータスも確認したいんですけどいいですか?」
「うん。わかった。」
そう言い、アシアさんは奥へと消えていく。
僕も、椅子に座り、アシアさんを待つ事にした。
「お待たせ。はいこれ、報酬の100ベル。」
奥から戻って来たアシアさんは報酬が入った袋を渡してきた。
「100……。もっと働かないと今月まずいな………。」
「あんまり無理しちゃ駄目だよ?君いつもボロボロじゃない。」
「それを言われると何も言えないです……。」
「あっ、後これ。ステータス紙持って来たよ。」
「ありがとうございます。」
紙を受け取り、ステータスを確認する為、指を針で少し切り、そこから出てきた血を紙につける。
すると紙から文字が写し出されていく。
アレス=ガイア Lv3
力E(10)
耐久E (8)
敏捷E(10)
技能D(23)
魔力E(0)
不幸E+(14)
スキル
蒼眼
魔法
無し
「おぉ!レベル3に上がってる!!」
「おめでとう!! –––––ん?ちょっと待って。」
「どうしたんですか?」
ステータスを見ていたアシアさんは僕と一緒に喜んでいてくれていたが、徐々に驚いた顔に変わっていく。
「アレス君。ここ見て。」
アシアさんはステータス欄の一番下を指さす。
「何ですか………。はい?」
僕はアシアさんの指の隣を見る。そこには今まで見たことがない新たなステータスがそこにあった。だが、これは。
「不幸!?しかもE+!?」
技能に続いて不幸が高いとはどういうことだ?毎回僕がぼろぼろになるのはこれのせいか!?
アシアさんはなんとも言えない顔をして僕の肩をポンと叩く。
「…………レアステータス。取得おめでとう。」
「こんかレアいらないですよーーー!!」
レアステータス。それは戦闘を繰り返す事で稀に入手出来るステータス。
……レアステータスと言うかこれはバッドステータスだろ。
さっきの喜びはすっかり消え失せ、項垂れる。
「まぁまぁ、これからの頑張り次第では消えるかもしれないし、その、頑張ろ?」
「は、はい……。」
「………それより、アレス君はステータスカード買わないの?」
ステータスカード。それはステータス紙とは違い、カードを持つだけでステータスが表示される便利な代物だ。だが……。
「買わないというか、買えないんですよ。お金も無いし。」
ステータスカードは高いのだ。生活するだけでもやっとなのに、そんな高価な物を買ったら確実に破産する。
「なら、私がお金をあげるよ。」
「えっ!?そんな、いいですよ!!」
「ううん。アレス君には助けてもらった礼もあるし、それに、アレス君には、生きていて欲しいから。少しでも便利な冒険になってもらいたいの。」
「アシアさん………。」
アシアさんにこんな事を言ってもらえてすごく嬉しい。美人だからって理由じゃない。誰かに生きていて欲しいなんて言われたのは久しぶりで、本当にうれしかった。
「嬉しいですけど、やっぱり奢られるわけにはいきません。ちょっとずつ返させてもらいます。」
「………うん。わかった。」
アシアさんは僕の手を握り、ベルを渡してきた。
「ありがとうございます。アシアさんの期待に応えられるようにがんばります!!」
僕はベルを握りしめ、歩き始める。
「………頑張ってね。アレス君」
僕は諦めない。諦めたくない。英雄になりたいから。強くなった僕を彼女に見てもらいたいから……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます