14-静かな場所

計略も、思惑も関係ない川辺にて。水の流れる音が響いている。


3人だけになった拠点でグスタフは、雪が散らつくテントの外を眺める。

積もるほどではないだろう。雪解けの時期を思うも、そうすぐではない。


雪になるか?雲の流れを見た。


増援が来るのは、まだ数日かかる。それでも早い方だ。キースの決定権と議長の協力態勢は整っている。


調査に人員が欲しい。

『極北の城』は、周辺地域の獣人が冬の寒さを身を寄せ合って過ごす場所だった。


そこに、城を守る兵士を置く事で訓練の場としても使うようになった。この環境では他の利用方法が思いつかないだろう。


しかし、国の守りとしても機能する。それが

“魔木の観察”


この魔力を多く含む森、魔物の存在から発生すれば被害が拡大する。


この森で豊富な薬草の発見と、城内での栽培も可能だが魔物を狩ってその魔石を利用する。ここで魔物の排除ができるのも役割の一つだ。



しかし、魔物の群や暴走以上に魔木は危険だ。

魔素が蓄積した事で、魔物を呼び寄せ凶暴化させる。そして異形の魔物が現れると言われている。これは確認できていない。


“生き残りの恐怖が見せたのだろう”と言われている。


その記録にあったかつての村や町を飲み込んだのも一本の魔木だったと証言が集まっている。


その一本を切り倒すために、何人が犠牲になったのかは詳細の記録に残されていた。


対応策は、監視と早期の発見。

幼木であれば近くの魔物を呼ぶだけの木だ。それほど脅威はない。近場に出現した事は今のところない。


“群れでの爆発的な魔物の氾濫”に至るまで時間はあるものの、発見しづらい土地柄だ。


魔木は“ダンジョン”と呼ばれるものに似ている。

未踏のダンジョンは、多く魔木と似た作用があると言う。その点ではまだわからないことが多いが。


(情報を合わせれば…この辺り。)

見ていてもわからない森とだけの情報に、グスタフは地図から目を離した。


少し目が痛い。

外の明るい空が見え、時間の経過を感じさせる。


魔物の動きも活発になってくる森の状態に、動きやすくなるのは兵士の方も同じだ。

移動のない魔木は、どれくらい成長している可能性があるだろうか?


雪で閉ざされたことによる封印が解ければ…


内包する魔力の影響により、魔物の生息域の拡大による環境の悪化が懸念される。



歪みも出る事から、“異形の魔物”が召喚されるのではないか?と学説も出ている。ダンジョンの地下深く、ボスと言われる魔物は陣の中から出てきた。そのパターンはよく聞く。


ダンジョンの入り口に戻される魔法陣であっても、召喚と似た陣を含むと研究報告が成されていた。


召喚される魔物は、脅威そのものだ。

何の準備もないうちに、野に放たれるなど悪夢でしかない。


北、そこから東の方

魔木があるのでは?と思われる方角を見る。



一個の木の実、その魔力の内包から、調査の必要性を強く感じた。


逃げるほどの規模か?

その見極めも自分の仕事だった。



「異常ありません」


頷いて答えた。兵士は良く使う報告の言葉だが、本当に異常はないのだろうか?


“そう考えるの職業病だよ?”


同じく見たままを信じないキースの言葉だ。そのままのとらえられる情報など少ない。


報告に来た獅子の獣人の後ろ姿。新兵にあたるが良く動いてくれている。


セリと戦っていた姿を思い出した。

基本に忠実


セリが気になる素振りが見えたが。若いな。

人の恋路に興味はないが、竜人ロードの力は考慮に入れる。


戦力を考えるのは、キースの分野か。


疲れてきた脳に、昼食を与える事にした。故郷の料理は恋しいが、ここの食事も趣きがある。干し肉続きでないのが良い。


静かな時間もこの時だけだろう。すぐ騒がしくなる予想にしばらくの静けさに目を閉じたのだった。

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