第四幕 北へ

1- 食事会

『極北の城』名前の通り獣人の国、その北の地にある城は雪に覆われその頑強な壁で住民を守っていた。この地で極寒の時期を過ごす住民達は、

身を寄せ合って過ごす。


住民達の息抜きと軍の日頃の鍛錬を見せる意味で、行われる模擬戦が終わるもその熱気に賑やかな声が所々で聞かれる。


「今回もまた、見応えあったな!」

「まあなあ。客の方もなかなかなっもんだった。」


「多分な!何たって、最後は見えなくなったもんなあ。」


酒も入ると、模擬戦での事が再び口にのぼる。


「人間の子供が、あんな弓捌きするとはなー。」

「あの狼獣人ってあんな風に戦えとは!斧の技の避けるスピードがこれまた!」


十分に見応えのあるものであった。

飛び入りの参加として軍とは関係ない人間の子供が立った。その新しさも

観戦の注目度が上がる結果よなる。


「最終戦が、あんな風に見れないとはなー。」


今回の帰結はそれに尽きるようだ。

魔法と力技が可能な大将戦では、試合の様子を映しす“ヴィジョン”という魔導具が機能しなくなる事もあった。


そんな事も酒を進めるネタだ。


「獅子の団長殿は、大丈夫か?」

風魔法を扱う団長が、魔導具を壊してしまった過去は数度ある。見れなくなって残念だが、今回の相手は分が悪い。


「なんたって、地下が氷漬けになる魔法だろ?ブリザードの中みたいだったなあ〜」


手足の凍傷、足場も悪く上から氷柱が落ちてくる環境は、なるほど天災級の魔法だったかもしれない。


その怪我を治せる担い手と、衛生士がいるので心配はするが不安はない。


しかし

“最強種の竜人が相手”


その竜人に立ち向かう姿が、この城を守る団長として住民と兵士に期待と安心感を与えていた。


住民は、ここを守る騎士と兵士達を誇りに思う。

「騎士の力と技に、乾杯!」


そして更に、飲み騒ぐ。この寒さに負けない力を得ていた。



その熱が届かぬ場所、地下訓練場を目下に位置する観覧席。

そこには模擬戦で戦ったメンバーが勢揃いしていた。


慣習では、勝利した者を集めその褒美を聞き即、解散。身内である故の省略化されていても、すぐ呑みにいけるため緩い形式だった。


兵士の鍛錬の成果を見せる場としての模擬戦であったが、今回は別の様相を呈している。


王家の縁を持つ者が来賓として観戦していたこともあるが…

一番は、兵士ではない獣人でもない者の参加だ。


「セリ、見事な戦いだった。」


声をかけたのは、

この城の最高決定者、エルフの議長アクレイオス。


騎士側の要請で参加を促されたセリ。隣国の孤児院で育ち、北の砦と呼ばれるところに居たらしいと証言したが兵士とは思われていない。


本人は兵士として連れ出されたが、実情は食料調達の狩りをしていた。

中々に波乱の人生である12歳。


その最たる事が、最強と謳われる竜人に捕まってしまった事か。


「ロード、セリを下ろさないか?」

渋々、セリを抱きかかえていた竜人の男が議長に従った。


セリを自身の番だと、負傷していたのを見つけてこの城に連れ帰った。

べったりな様子に、氷の竜人の暴走が見受けられる。


その暴走を止める役目に、狼獣人のカナンがセリの護衛についていた。

この男も兵士だが2人に拒否反応はない。

その3人が模擬戦に勝利を得た。


この後、皆で食事会だ。慣例で端折られた会が復活するという。

稀な事になったのは、何も3人だけのせいではないのだ。


「じゃあ移動だね?」


議長の側に居たのは、王家に連なると噂される貴人だ。

「キース、ご苦労だったな。」


回復魔法の使い手としても最高位のキース様は微笑む。

「まあ楽しく食事をしよう?」


模擬戦で力を交わしたものの、まだ双方にわだかまりを感じているメンバーが動き出した。


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