第四十八話 決着


場所の限定ながら

これだけの氷を広範囲に作り出せる魔法力



竜人の腕力や身体強化ばかりが

話題に上がるが、魔法特化も加える必要があるな。


静かに、剣を構えた。

風の付与のつく、一振り。


模擬戦用に刃引きなどしていない。

相手もそうだ。


付与などはないようだが頑強そうな曲刃の大剣を肩に担ぐ。

少し小ぶりか?


斧ほど重さはなく、振り回しやすく

薙ぐ軌道に注意が必要か。


この男は、

巨体で足の速い大型の魔物を仕留めている。単独で、だ。

団体行動は難ありだが、能力が飛び抜けている。


着いていける人材が、いないのだろう。

竜人の数々の噂が、嘘ではないと信じさせる成果を上げた。


見慣れた地下訓練場が、竜人の魔法で変化していく…

氷で足場が悪化する

頭上からの氷柱に気をつける必要ができた


目の前の男に気負った様子はない。

どう打ち込むか探っている間にも凍りつきそうだ。


(観戦している連中は、ロクに我々が見えていないだろうな。)

あれは、設置した場所で魔導具の視界が塞がれると見えん。


息が白くなる

構え、相手に踏み込んだ。


ガキっと刃が合わさり、力勝負になる。

互角か?


風の付与の力を借り、

氷で固められないよう、撃っては戻りを繰り返す。


風の魔法で周囲を吹き飛ばし、足場を作りつつ

己にも魔法でスピードを上げ攻撃を増した。


相手は軽やかに、斬撃を捌かれる。


剣の軌道を見る目、力、で勝てぬのなら…

技を尽くすのみ。



氷が飛んでくる


竜人は獅子の攻撃に、

いなし、避け、その黄色の瞳を睨みつけるだけ。


その感情に

いや獲物を屠る

という目的しかないのだろう。


相手が誰であろうと

観察し


負けはない


すでに、どれほど持つかの耐久戦だ。

勝ち筋の見えないまま、撃って出るしかなかった。



「あっちが団長で、こっちがロードな。氷が壊される音だが、

団長の持つ剣の力だ。」


カナンの解説を聞くセリは、

なんとかガラスの向こうの模擬戦の様子を見ようと


ガラスを拭いて見るも、さっぱり見えない。

氷で見えづらい上に、この観覧席は温かい暖房具が設置された。


シュルトの用意が良すぎだった。


「ふむ。風で氷を蹴散らすも、決定的な攻撃はできていないようだな。」

「ロードの防御を突破できる剣ってあるの?」


「火の魔法が付与されていればあるいは…」

「僕ほどの強い火魔法が付与された剣、ね?」


国宝級でも怪しい


セリは観戦を半分諦めたが、まだガラスに張り付いている。

(後でロードに聞こう。)


嬉々としてセリに話す、ロードの未来が確定した。

番が自分を心配し、興味を持ち褒めてくれる


ロードへのご褒美の時間が来るのも遠くない。



そして静かに、

獅子が倒れたのを見た気がしたセリだったのだ。

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