第5話 元捕虜
捕虜とは
“敵対関係にある兵士を捕らえ、交渉材料に使うこと”
と習った。断じて今の状況ではないとセリでもわかる。
(鏡で顔を見る習慣もなかったんだなあ)
セリは体重が増えて、顔まわりもふっくらしてきた。
(以前のようにわたしが、少年に見えるのは無理があるかも。)
元々、少年には見えていないが、服装と周囲が誤魔化していたので言い切れた。変態な貴族に目をつけられないように。
セリを寒い外に居させるのは忍びなかった兵士達だが、部屋に居たのを呼ばれ変態の相手など子供にさせたくない。彼らの多くが父親だった。
セリは「可愛いタイプではなかった。」「じっくり見なければ、男の子にも見える。」しかし、「“可愛い”が付く」「将来美人になるな。」
「うちの娘の愛嬌には負けるがな」
これが人間の国の砦に集まった兵達がする、食堂でお決まりの会話だった。
ここの兵は“捨て駒”で“壁役”。
人族主義の上層部、その命令を聞かなきゃいけないのは妻子が人質にされているから。忠誠心も敬う心が、ひとカケラも無くても従う理由だ。
寒冷地で誰も居たがらない地でも、立て篭りやすく少々の魔石が魔物から手に入れられる重要な砦のひとつ。
細々と日々、破滅に向かう砦に子供が来るとは皆、思わなかった。
「来たくて来たんじゃない。」と無愛想に言った子。
下っ端兵は、同情的だった。
馬鹿な坊ちゃん貴族の我儘の犠牲だろう
それは、当たっていた。
世話と守りについた兵は、その魔法の潜在能力に驚き、色々教えれば覚えも良かった。女の子だったと分かった人間から、緘口令をしき守っていた。
故郷の娘、息子を重ねた者もいたが、いつも悪態つく仲の男たちでも協力する。
それが
「魔物に襲われ、行方不明。」
こっそり探索部隊が組まれたが、大型魔物の倒れた痕跡と獣人の部隊がいた事が分かったのみ。本人は見つからない。
「アイツが倒した?」「流石にあの大物は無理だろ」
「無理か?」「装備があれじゃあ、な。」
魔法を補助する呪符、杖、仕込みの時間もない。不意打ちで応戦できる奴も居ない散歩部隊。坊ちゃん上司の命令に逆らえたと思えない。
上の目を盗んだ会議。真面目に話し合う中…
「保護されたかもしれない。」
敵国だが、寛容な国だ。子供に無体はしないだろう。
「うちの国と違ってな?」
その結論に至り、上には『行方不明・死んだと思われる』と報告した。
そんなセリが、砦での食堂とは規模も資金も違う。
今いる『極北の城』衛士用の食堂にて、カナンが食事を持ってきてくれるのを待っていた。
あの砦にあった、酒の飲み比べもなし。愚痴を叫ぶ者もいない。
町の食堂に近い雰囲気かと想像し、あたりをキョロキョロする。
獣人の多さ、特徴的な姿を目に映す。
背の高い、または小柄な人も居て人間より色々だ。
身体強化、特徴その習慣。
本で知った事もあって、忙しく目が動く。そんなセリでも
ロードの膝の上なので完全は確保されていた。
最近は知的な興味が満たされるものの運動不足だ。
ロードに部屋、図書館。グスタフの研究室。
飽きるので、シュルトの用がある日の昼食は、食堂で食べようになった。
新人の兵が担当でも、衛士なので料理は上手い。
金を払えば、ある分だけ提供があり、部屋に持ち帰れもする。
他の新人騎士の食堂は一般の人間を受け入れておらず、小さな食堂は住民向けに決まっている。食の好みが分かれ、家族が予約して使っていた。
周囲が獣人だらけなのだ。
ロードとカナンがいるため、同伴として入れている。
2度目でも、その食事風景に視線を集める。
竜人、その番の人間の少女。狼獣人。
興味が尽きないが、怖いので近づけない。
そんな中、3人組も見ていた。
「決まりだ」近づいてくる影があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます