46

痛すぎて息の仕方さえ忘れてしまう。

助産師さん、看護師さんが何かを言っている、その声もよく聞き取れない。

もう訳がわからない。


「美咲、頑張れ。息を吐いて。」


圭佑さんが手を握ってくれ、私は意識をそちらに向ける。何もわからなくても、圭佑さんの声だけは私の耳に届いた。むしろ圭佑さんの声しか聞こえない。


圭佑さんが隣にいる。

そのことを再認識するだけで心強く感じた。


「はい、次で産まれるよー。はい、いきんで!」


「美咲、いきんで。」


圭佑さんが助産師さんの言葉を復唱し、私は圭佑さんの手を握りしめながらそれに従った。


「はい、息をしまーす。フッフッフッフー。ほら、赤ちゃん産まれましたよ。おめでとうございます。」


「……えっ?!」


痛さとつらさで全然赤ちゃんが産まれたことに気づかなかったが、助産師さんの手にはしっかりと、しわしわな小さな赤ちゃんが抱えられていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る