モテなさすぎると死ぬ世界~恋愛力5のゴミですが、彼女が四人(うち男一名)できました~

石田おきひと

1.盛岡公男の憂鬱

第1話『死より恐ろしい病』

「残念な結果となりました。公男きみお君の恋愛力はたったの五しかありません。これは同世代の平均の百分の一以下です。この先、とてつもなくモテない人生が彼を待っていることでしょう」


 白衣の医師せんせいが重々しくそう告げると、隣の母さんがわっと泣き崩れた。


 ……いや、大きなお世話だよ。

 なんだよ、とてつもなくモテない人生って。


 こんなデカい総合病院で、半日もかけていろいろ検査して、なんで僕こんなストレートに罵倒されているんだ。

 ヘイトスピーチだろこれ。泣くぞマジで。


「ああっ、そんな……! 公男……!」


「先生! なにかの間違いではないんですか。だって、うちの公男はこんなに元気なんですよ!? なのに、そんなに恋愛力が……公男が死ぬほどモテないだなんて……」


 やめてよ。

 モテなくて死ぬなんてことないよ父さん。

 いいじゃない別にモテなくたって。 


 僕は元気なんだからそれでいいでしょ?

 必死に詰め寄る父さんを制し、医師は話を続ける。


「お父様、お母様。お気をしっかりとお持ちください。確かに恋愛力が低いからといって、生死に関わることはそう多くありません。ですが、統計上、公男君が三十歳までに結婚できる確率は十五パーセント。生涯未婚率は……」


「いや! もう聞きたくありません!」


「……そうですね。この場で言うのはやめておきましょう。あまりにショッキングな数字ですから……」


「母さん! ……すいません、先生。はっきりとおっしゃってください」


 耳をふさいでしまう母さんを叱りつけ、父さんは蒼ざめたな顔で言った。

 一家の大黒柱として、衝撃的な事実をその身で受け止めようという覚悟が感じられる。


 ……え? これ、覚悟そういうのとか要する局面?

 何、本当に死ぬの僕? モテなさすぎて?


 そりゃ、モテなくて結構とは言わないけども!

 モテないからって死のうなんて思ったことないよ!


「……分かりました。とても残酷なことですが、公男君のようなケースでは――生涯未婚率は八割を大きく上回ります。子どもを残せる可能性は、ほぼゼロと言ってもいいでしょう」


「ああっ、あああ――!! 公男――!!」


「母さん! 母さん!」


 改めて口を開いた医師の言葉に、とうとう母さんが大声で号泣し始めた。

 身も世もなく泣きじゃくる母さんの肩を抱きながら、父さんも男泣きに泣いている。


 僕、人類誕生以来の存在じゃね?

 モテなさすぎて親をマジ泣きさせた高校生って。


 そんな二人を横目に見ながら、渦中かちゅうの人である僕は死ぬほど冷めきっていた。


 恋愛力。

 少子化改善が叫ばれてひさしい中、どこぞの偉い研究者様たちが考え出した「その人がどれくらい子孫を残しやすいか」を表す指標だ。


 恋愛力の算出に用いられるのは、主に二つ。

 一つは、恋愛強者が多く持つとされる『恋愛遺伝子(なにこれ)』の量。


 もう一つは、百問近い『恋愛アンケート』。

 あとはまあその他諸々を基準に、この恋愛力は算定される。

 

 端的に言えば、恋愛力が低ければそいつはモテない奴で、高ければモテる奴というわけだ。


 ……いや、ぜんぜん気にしてないけどね僕。

 だいたい僕まだ高校二年になったばっかりだし。


 将来結婚できるできないとか、子どもが残せるかどうかとか、ぶっちゃけ超どうでもいい。

 

 だが、どうもそうは思わない大人がたくさんいて、そのおかげで僕と同年代の人間にまで、同じ価値観は広まっている。

 僕のような常識人にとって、この現状はまさに悪夢だ。


「あー、先生もういいですかね? 早く帰りたいんですけど」


「公男君……君は強い子だ……でも、私の前ではそんなに気丈に振る舞わなくてもいいんだよ」


 その優しげな眼差しは無性に腹が立つからやめてほしい。


「いや、そんなんじゃないです。本当に帰りたいんです。用事あるんで」


「用事? どんな用事なんだい」


「漫画読みたいだけですが……」


「漫画か! どんなジャンルを?」


「……普通にバトルものですけど」


「ちなみにタイトルを聞いても?」

 

 なぜそこまで気にする。

 少なくともあなたが描いた漫画じゃないのは確かだよ。


「……GAKIです」


「GAKI! ほとんど男キャラクターしか出てこない漫画じゃないか! やはり学会で報告されていた通りだ……恋愛困難者は恋愛ものには興味を示さない傾向が強いか……」


 潰れろ、そんなくだらない報告してる学会。

 何やら考え込み始めた医師と、おいおいと泣いている両親をほったらかし、僕はさっさと病室を出た。

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