レポート


【結論を言えばF22は良い戦いをした。仮にSW用F14での対戦だったとしたら確実に撃墜されていたはずである。


当機は交戦に入るとすぐに上昇し、敵機が追尾してくるのを確認後、高度11000メートルで降下しつつの左斜め旋回に入り、敵機を陽動。敵機がつられて同じ軌道をとろうとしたところで右斜めに上昇。


ここで高速のヴァーチカルリバースを行い、最小旋回半径をとることで優位に立ち、のちの機動でF22の背後を捉える。この勝負を決した旋回は23改の性能的特徴(これをやらんがための開発を行ってきたゆえ)であり、操縦者の技倆というわけではない。


F22は抵抗を見せるが(筆者としてはここでのパイロットの踏ん張りに関して称賛を惜しまない。極限状況のなかにあっても第一級の機動を示したからだ)状況は苦しく6秒後に当機がロックオン。


射出されたサイドワインダーがF22の後部を直撃した。のち10秒ほどでパラシュートを確認。交戦は以上。


──こうして記述するとイージーな空戦と誤解を受けやすい内容であるが、まず当機の初動に追随して来れたこと自体が驚愕であり、この初見の当機に対して必要十分な機動をとれたことが結果的には敵機の敗因となっている。


この結果はF22の卓越した高性能を証明した形であり、性能への信頼を損なわせるものではない】


──そうか。労りの内容になっている。SW所属のパイロットとして書かれたものだ。


私はカミルにパソを返しに行き、黙って渡した。とりたて言うこともなかった。


        ☆


明くる日の午前中、ネバダ支部の飛行場に到着するとデリスのへとへと具合が一見してわかるほど顕になっていて、ああ戻ってきて初めてほっとしたのだなとわかった。


出迎えに集まっていたパイロットや整備士たちがデリスを囲んで滑走路で騒いでいるなか、私は目にする。アレアが瞳を潤ませてデリスに近づいてくると彼の左肩をばん、と叩いたのだ。


それでくるっと後ろを向いて彼女は滑走路を去っていく。はて? 謎の行動だった。デリスはきょとんとして、(なに? なに?)と言わんばかりに当惑している。まあ心配していたのだろう。


詳しい情報はこちらには届いてないわけでこちらはこちらでやきもきしていたはずである。

私は疲労感が体に残っているだけでメンタル的にはすっかり元気を取り戻していたのでまっすぐ食堂に行った。日本式のカツカレーを頼む気満々で勇んで食堂に向かう。


        ☆


私はただただ食べることに集中し、食べきったところでコップの水をごくごくと飲んだ。

生きていてよかった。そうほっとするといつの間にかアイザックがそばに来ていた。

気配というものが彼にはない。


私の横の席に腰を下ろして彼は言った。


「23レポート、どう見ますか?」


ああ、そのことか。要するに。


「二次元パドルの戦いに持ち込んだってことだと。相手も陽動に乗らないわけにはいかずデリスの殺しのパターンにはまってしまった──」


両機のパドル(平べったいノズル。排気口のこと)は20度の範囲で上下に可変するのだ。操舵ではなく推力によって急激な機首の上げ下げが可能となり、この点が両機の強みとなっている。今回の勝利は沖縄支部による改造のたまものと言っていいだろう。


「ちょっとデータを見てみましたが、驚くべきスロットルコントロールをやってますよデリスは」


「でしょうね」


「どう考えてもスロットルで曲がってますよ」


「あー、やっぱり」


琉戦でF14の後部座席に乗って痛感した。デリスは私ならやらないことを連続してやっていた。抜くところパワーをかけるところがおかしい。私には理解できない操作と機動だった。


でも離れた距離から見たとしたらまったくそんなことはわからないはずだ。すべての機動が円を連続して描くようにつながり空での“舞”にしか映らないのではないか。

まあそれは琉も同じことをやっていたわけでデリスだけが例外ということではなさそうだ。


「それはそうとアイザック。ナラティブの方の話なんだけど」


「はい」


「三人やあなたについての記述はともかくよ、エドワードについては殆ど事実なんじゃないの?」


「……確かに嘘、はなかったように思いますね」


「だよね。三人とあなたの部分は主観や脚色はある……でも事実も含んでいると」


「言ったようにベースは事実を用いてます。しかしやはりフィクションと言わざるを得ません。……だってエドワードの弟子はもうひとりいましたからね」


「え……?」


そんなことはまったく書かれてなかった。

アイザックは立ち上がって食堂を去っていく。


私としては困った気分だった。いま聞かされたことはここへ来て初めて耳にしたことである。それは直接には私と無関係だからに違いない。

……知らなくてもいいこと、か。

私はそう理解した。そう考えていくと意外に《スカイウルブス・ナラティブ》はためになる読み物だったといまは思う。



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