第28-7話 有馬和樹 「ドラゴンぶん殴る」
『カラササヤさん、トレーラーに合流。ドラゴンは、おれとプリンス、師匠二人!』
通信でカラササヤさんに伝え、姫野を見る。うなずいた。よし、我らが軍師も同じ意見のようだ!
手すりを蹴り、地面に着地。ドラゴンに向かって四人が駈ける。
ドラゴンとの距離が詰まった。
ドラゴンは、きりもみしながら落ちたが、石畳に激突はしなかった。四本足で立ち、羽を大きく広げて威嚇してくる。
がばっと口が開いた。やべえ、炎だ。横に回る。
回り込んで拳、そう思った瞬間に横から衝撃がきた。尻尾だ。丸太で殴られたように吹っ飛ぶ。
倒れたところに炎がくると危ない。転がった勢いで立ち上がると、ドラゴンは反対の左を向いていた。剣を抜いているのはプリンス。
背後からのチャンス! と思ったが近寄ると尻尾がきた。くそっ、うしろにも目があるかのように勘がするどい!
何かないか? 周りを見回す。大きな石像。一年前、あれを壊して王都から逃げた。いいぞ、これは利用できる!
石像のうしろに回り、ドラゴンの方向に向いた。
「粉砕拳!」
少しだけ力を抜いて打つ。大きな石像はボゴッと吹き飛び、ガレキがドラゴンの近くに散らばった。
ここは大通りなんで遮蔽物がない。万が一、あの炎をよけれなかったらヤバイ。
次にドラゴンの近くに走り、下を向く。
「粉砕拳!」
石畳に拳を打ち下ろした。石畳が割れ、下の土も飛び散る。人ひとりが入れそうな穴ができた。
「プリンス!」
プリンスに、こっちに回れとジェスチャーする。ドラゴンに向かって反時計回りに回っていたプリンスは、方向転換してこちらに走る。おれは逆にプリンスに向かって走った。
「クロスするぞ!」
プリンスはわかったようだ。おれとプリンスが交差する。ドラゴンは一瞬、どっちを追うか迷った。
ドラゴンが、おれに向かって炎を吐こうとした瞬間、獣のような叫び声を上げて反対に振り向いた。羽の真ん中あたりに切れ目が入っている。プリンスが上手く隙を突いたか!
おれはもう一度、地面に向かって拳を打つ。石畳と土が飛散した。
ぶん! と来る尻尾。なら迎え撃つか!
迫る尻尾を打つために拳を引くと、尻尾はくるっと曲がり、その先端が背中を叩いた。
こっちが攻撃するのがわかったのか、くそっ、ドラゴンって頭いい!
反動で前につんのめり、ドラゴンの胴にぶつかった。チャンスだ!
「粉砕拳!」
目の前の胴に拳を打った。何枚か竜の
ドラゴンは口を開けたまま振り返った。プリンスに吐こうとした炎をこっちに吐くつもりだ。やべえ!
おれは横っ飛びに跳躍して炎をよけた。炎が追っかけてくる。そのままごろごろ転がり、自分で空けた穴に入った。その上を炎が撫でる。チリチリと髪の毛が少し焼ける匂いがした。
おれとプリンスが戦ってるほうが赤いドラゴン。こいつ、炎を吐きまくる。組み合わせとしては、ヴァゼル伯爵に赤が良かった。伯爵なら魔術で炎を防げる。
魔術? そうか!
「菩提樹!」
おれの近くに光が集まり、精霊の姿になった。今度は大きくない。人間の大きさだ。
「菩提樹、ドラゴンに氷結呪文を!」
彼女が氷結呪文を出すのと、ドラゴンが炎を吐くのが同時だった。空中で二つがぶつかり相殺され消えていく。
ドラゴンの上に人影が飛んだ。プリンス。ガレキを台に跳躍したか。背中に剣を突き立てた瞬間、ドラゴンは身をよじり暴れた。羽にぶつかったプリンスが吹っ飛んでいく。
次にドラゴンは、おれに向かって口を開けた。おれの前に菩提樹が出る。氷結呪文。また炎とぶつかった。
おれは炎を迂回するように飛び出す。胴体と距離を詰めようとした時、バキバキ! とドラゴンの背びれが起き上がった。
背びれが光る。おう? それってパワーアップ?
ドラゴンは咆哮とともに、さらに大きな炎を吐いた。その炎は氷結呪文と菩提樹を飲み込んだ。
「菩提樹!」
叫んだ一瞬、気を取られた。横から尻尾の攻撃を喰らう。地面に倒れたおれに、ドラゴンが大きく口を開ける。牙が迫った。食われる!
ドスドス! という音とともに、巨人がドラゴンの口を押さえた。こいつはゴーレム! 向こう戦いに勝ってこっちに来てくれたか!
ゴーレムは上と下のアゴを掴んでいたが、ドラゴンの力のほうが強いのか、バキバキ! とゴーレムの腕が折れていく。
おれは跳ね起きてアゴの下に入った。
「粉・砕・拳!」
真上に向けてアッパーを放つ。これで倒れたら「ドラゴン・アッパー」と名付けるぜ!
ドラゴンのアゴが弾け飛ぶ。しかし倒れず前足を大きく上げた。くそっ! しぶとい。おれを踏み潰す気か!
そこにプリンスが飛んだ。跳躍と同時に剣を首に刺す。喉に剣が刺さったまま、ドラゴンはゆっくり仰向けに倒れ、動かなくなった。
おれは大きく息を吐き、呼吸を整えようとした。
「キング、大丈夫か?」
おれはうなずく。プリンスも大丈夫そうだ。
ジャムさんとヴァゼル伯爵のほうを見た。ちょうど、横たわった青いドラゴンの頭にジャムさんが剣を突き立てたところだった。
「あっちは二人、こっちは四人がかりでようやくかよ」
おれの言葉に、プリンスは地面に転がっているゴーレムを見た。
「キング、菩提樹は炎に消えたが、大丈夫か?」
「どうだろな。まあ、里の樹が燃えない限り、死ぬことはないと思うが……」
ドラゴンから離れ、師匠二人の元に行く。二人もこちらに歩いてきたので、大通りの真ん中で落ち合った。
「そちらも、問題なく勝ったようだな」
ジャムさんが言った。問題は大ありだ。またまだ修業が足りない。
うしろにトレーラーが来たので乗り込もうとした時、異様な気配が!
振り向いて大通りを見つめる。おれだけじゃなく、プリンスや師匠の二人も振り返った。
『進藤、ちょっと止まってくれ』
トレーラーを運転する進藤に通信を入れる。
『キング、なに?』
心配そうな姫野の声。
大通りを歩いてきたのは、若い司教だ。剃髪した頭に派手なローブ。汚れひとつない真っ白な生地には、金の派手な刺繍が入っていた。
ハビスゲアルから通信が入る。
『あれは、二番目の司教アンリューラス。ヴァゼル殿や、ポンティアナックを召喚したのが彼です』
あいつがヴァゼル伯爵を召喚したやつか。二番目? では教会のNO2か。意外に若い。まだ二十代後半だと思う。
だが、異様な気配はそいつではない。そいつの後ろを歩くやつだ。
ヴァゼル伯爵も、自分を召喚した司教より後ろの男を見ている。
「……最悪ですな」
「ヴァゼルも知っておるか」
二人の言葉におどろいた。師匠たちも知っているのか!
茶色い髪に編み込まれた金の糸、胸元についた無数の金のブローチ。そしてなにより、宝石が入っているとされる光る眼。思わず口からその名が漏れた。
「……戦の神、クー・フーリン」
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