第21-3話 野呂爽馬 クラス全員登場Ⅲ
さて、ほかの人はどこだろう?
里の大通りを歩いていると、クーラー小屋に誰かいた。
大工の「
クーラー小屋に入ってみる。びっくりした。壁に白いスクリーンがあって、何か映像が映っている。
「うわ! 映画?」
そのスクリーンの前にいた渡辺くんが振り返った。
渡辺くんが振り返ると、映像もスクリーンも消えた。スクリーンごと幻影だったのか!
「ノロさんか。今日の収穫祭で出し物にしようと思って」
うわー、なんだか今日はイベントがいっぱいだ。
部屋には、もう二人いた。
この四人は「工作班」と呼ばれている。家そのものから、ベッドなどの家具、調理場の石窯までなんでも作る。
「あー、ノロさん、ちょうどいい、こいつ持ってて」
「動かないでよ」
作田くんは、頭と胴の間を指差した。
「エポキシA!」
作田くんが叫ぶと、頭と胴の設置部分がツルツルしたように感じた。
「エポキシB!」
一瞬で、それがピタッと動かなくなった。
「作田くん、これって?」
「エポキシ接着剤って言って、プラモなんかで使うやつ。Aが樹脂でBが凝固剤。二つを混ぜると強力に固まる」
作田くんはプラモデルが趣味なのか。
僕は力が弱いから工作班を手伝ったことがない。初めて作田くんのスキルを見た。
「あれ? それってスキルだったら一回で済む接着剤で良かったんじゃ……」
「おう、ノロさんにもツッコまれちまったなぁ。あっしもそう思うゼイ」
茂木くんが、カーテンを付けながら言った。
「いいの! 使い慣れてるんだから。文句あるんなら、何か作る時に手伝わないよ?」
「おおっと! そいつぁ困らあな。その力がねえと、時間がかかっちまう」
なるほど。僕は、この小屋や食料庫が簡単にできるもんだとおどろいた。それは茂木くんの木工スキルと、作田くんの接着剤のお陰なのか。
「この木人形、何に使うの?」
「ふふふ」
笑ったのは駒沢くんだ。
「夜のお楽しみ」
そう言って、眼鏡がキラーンと光った。今まで見たことがないので、生活に必要なスキルではないんだろう。
みんなにお茶がいるか聞くと、四人とも紅茶を希望した。カップは各自が持っていたので、それで紅茶を作る。
四人にわたしてクーラー小屋を出た。
道の向こうから馬車が来る。
もう慣れたけど、初めてこの馬車を見たら、きっと目が飛び出てしまう。走っているのに馬がいない。
運転しているのは、
その馬のいない馬車が、目の前で止まった。
「ノロさん、どこ行くの?」
「えーと、農業班のみんなは?」
「南の畑にいるよ。カブが良さそうなんで、取っておこうと思って」
「あ、じゃあ、僕も」
馬車の荷台に乗り込んだ。
「じゃあ行くよ、掴まった?」
「うん」
僕は荷台を端をぎゅっと掴んでいた。最初に大きく揺れるからだ。
「よーし、中免小僧!」
進藤くんが、スキル名を叫んだ。ハンドルをぐいっと回す。
ガタガタガタガタ! と馬車は大きく揺れると、ゆっくりと進みだした。
僕は荷台から手を離し、進藤くんの近くに行く。
「あいかわらず揺れるね」
「ああ、重い車体だと、特にね」
スキルの「中免小僧」は車輪のついた物を動かす力だ。進藤くんが試したところ、最高速度は60kmあたりらしい。以前は30kmだったので、ずいぶん上達したそうだ。
僕もちょっと運動でもして鍛えたほうがいいかも。スキルがもっと上達したら、もっと何かできるかもしれない。
「そういや、進藤くん」
「なに、ノロさん」
「なんで名前が中免小僧なの?」
「ああ、16で取れるのって、二輪の中型免許までなんだ。その中免を取ってイキがってるのを中免小僧って言うの」
「あはは、それを自分で言うんだ」
そんな話をしていると、南の畑についた。
畑にいたのは
前に魚住くんは、サラマンダーを釣り上げた。その肉は冷凍庫で保管していると噂で聞いた。今日のハンバーグって、その肉じゃないよなぁ。やだなぁ。
「あれ? じいちゃん、ばあちゃんは?」
進藤くんが聞いた。じいちゃん、ばあちゃんとは、この農業班の顧問。元村長のグローエンじいちゃんと、ルヴァばあちゃんだ。
「クッキーを作るって帰ったぜ」
ああ、そうか。昨日に菩提樹の木の実を大量に拾った。それでクッキーを作るって言ってたっけ。なんでも、この世界の菩提樹から取れる木の実は美味しく、栄養もあるんだそうだ。
「女子二人は?」
「毛利はあそこで絵を書いてるよ」
魚住くんが高いところにある林檎畑を指した。
毛利さんが見えた。木の下で絵を書いている。
「林檎の色づき方が、今日はキレイなんだとさ」
魚住くんが肩をすくめて言った。
「吉野は?」
「トイレ行って、それから戻ってないな」
「ったく、しょうがねえな、女子は」
進藤くんはそう言うと、荷台からカゴを下ろした。
「んじゃ、カブ採って帰るか」
「カブ」と僕らは言っているが、異世界なので厳密には違う。味と形が似ているので、そう呼んでいる。
カブは大きく育っていた。
一時間ほど採ると、腰が疲れてくる。
「このへんにすっか」
進藤くんが言った。
「あー、風呂入りてえな」
たしかに手も足も泥だらけだ。それで思い出した。
「コウくんたちが入るって言ってたから、お湯はあるかも」
「お、じゃあ急いで帰るか」
進藤くんが馬車に乗り込む。
僕はトイレに行きたかったので、二人には先に帰ってもらった。
里には、いくつかの小川が流れている。そのひとつの一番下流、そこに水洗トイレを作っていた。水洗と言っても、小川の上に衝立と屋根を無理やり作ったもの。あれが落ちたら勝手に流れていくだけ。
トイレに行っておどろいた。いなくなったと聞いた
「吉野さん!」
「ああ、ノロさん」
「な、なにしてんの?」
「流れが悪くなってて。ちょっと直してるの」
「ええっ! それなら呼んでくれればいいのに!」
一人で直すのは大変だ。それにトイレの下流なんて汚い。
吉野さんがいるところに近づくと、流れが悪いというのがわかった。そうとう臭い。
「あっ、待って」
吉野さんが僕の顔の前で手を振った。匂いが消える。
「ゲスオくんに、匂いも通さないように改変してもらったから」
「あっ! 吉野さんのスキルってマスクだ!」
吉野さんは花粉症がひどいらしく「見えないマスク」というのがスキル。
「ねっ、この作業、私が適任でしょ」
「適任かもしれないけど、何も一人でしなくても」
「だって、誰もやりたくないもん。私だってやりたくない。それなら損するのは一人のほうがいいでしょ?」
なんだろう。その通りなんだけど、この気持はなんだろう。僕はなんかわかんないけど、感動してる。
こんな人と結婚できたら、幸せになれるんじゃないかな。僕なんかと結婚したらダメだけど、吉野さんはいい人と結婚して欲しい。
「ありがとう、吉野さん」
吉野さんが笑った。マスクしてるからかな。すごい、かわいい。
「吉野さん、マスク似合うね」
「うん? このマスク見えないよ」
「ああ! そうだった」
もう自分で、なに言ってるのかあきれる。
やっぱり僕って頭が悪いなぁ……。
前巻 終
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