第14-2話 沼田睦美 「照明のスキル」

「これで、お肉があれば完璧なんだけどな」


 ぼそりと友松あやさんがつぶやいた。


「娘たちの要望に応えよう」


 とつぜんの声に振り返ると、トカゲの戦士ジャムさんだった。手には射止めた野鳥を何匹も持っている。


「そこの山に鳥が多くてな」

「ジャムパパ! 最高!」


 友松さんが抱きついた。彼女の肝っ玉は太い。


「あちらでさばいてこよう」


 それを見た喜多絵麻さんが、意を決したようにナイフを置いた。


「私、教わります!」


 みんなが「えー!」とおどろく。


「そうね。この世界だと、やんないといけないことだし。うちも行くわ」


 友松さんも行くみたい。


「あやちゃんは鍋見てて欲しい」

「なるほ。オケオケ。じゃあ、ジャムパパまた今度!」


 喜多さんほか二名がジャムさんと消える。私は恐ろしくて、手を挙げられなかった。


 でも、がんばって野菜は剥こう! そう思ったけど、自分の剥いた野菜をみて、気分が凹む。皮が、分厚い。はぁ、やくたたずだわ。


「ちょっと、トイレ行ってくる」


 友松さんがナイフを置いた。


「ランタン借りれないかなぁ」


 そう言って周りをキョロキョロする。日が暮れてきた。暗い所で用を足すのは、私も怖い。


「野宿してる時のほうが、ある意味、楽よね。ちょっと離れれば見えなくなるから」


 ああ、それは言える。ここだと、人の目から隠れるには、かなり離れて草むらに入らないと。


「友松さん、秘密にしといてね」


 私は人参のヘタを手に取った。


「ピカール!」


 人参のヘタが光りだす。


「なにこれ?」

「なにって、私のスキル」

「嘘でしょ! むっちゃん、なんで言わないの!」

「えっ? あまりに無駄すぎて」

「無駄? これが?」

「えっ? だって火があれば灯りはできるし」


 私はとにかく、暗いと寝れない。スキルを考えた時も、まっさきにそれが浮かんだ。ところが、灯りなんて火があればどうにでもなる。


 貴重な一人一個のスキルを無駄にした。今となって考えれば、私も掃除にしとけば良かった。友松さんの負担を軽くできる。


「むっちゃん! みんなに……」


 そこまで言って、友松さんは考えた。


「待って。どうせなら、おどろかせたい」

「友松さん、トイレは?」

「それどころじゃないわ。もう引っ込んじゃった」


 友松さんは、それっきり、その話はしなかった。何をするんだろう? オバケの真似するとか? みんなに知られたくないなぁ。


 喜多さんたちが帰ってきて、いよいよ料理が進む。


 野菜ゴロゴロの異世界カレーは、ほんとにカレーの匂い! 匂いだけで、お腹が空いてきた。


 さばいた鳥は、ぶつぎりにして鍋で焼く。スパイスは量が少ないので、最後に振りかけるらしい。


 広場にみんなが集まった。


「料理班、ありがとう」


 姫野さんが言った。


「そのうち男子にも料理してもらうからね」

「ううん。いいの。慣れてる人でやったほうが早いから」


 喜多さんは微笑んだ。それは彼女の優しさだが、考えようによっては辛辣しんらつだ。へたくそは邪魔だというのと同じ。私、料理の練習しよっと!


「じゃあ、晩ごはんに……」

「ヒメ、ちょっと待って!」


 友松さんが、待ったをかけた。私の横に来る。手には木桶きおけを持っていた。


「ちょっと女子にプレゼントがあるの。並んでくれる?」


 女子のみんなが首を傾げながら、友松さんの前に並んだ。


 一番は料理の達人、喜多さん。友松さんが、木桶から拳ほどの石を取り出す。


「じゃあ、むっちゃん、お願い」


 うわー、そういうことか。笑われちゃうな。石を手に取った。


「ピカール!」


 石が光った。


「えっ!」


 喜多さんが、それを見て固まった。


 それからプルプル震えて、頭上に掲げた。


「いやったー!」


 ざわめきは波のように広がった。私も私も、とせがまれる。


 みんなに一つずつ石を渡し、光らせた。


「ええと、寝る時にまぶしかったら、布をかけてね」

「えー! 明るいままでいいよ」

「むっちゃん、これ、時間はどれぐらいもつ?」

「たぶん、8時間ぐらい」

「うわー! 最高!」


 すごい喜んでくれてる。私、すごい思い違いをしてたみたいだ。

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