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 クラーケンとの戦闘は辛くも俺たちの勝利で終わった。


 移動速度低下のイカ墨ブレスに、バインド付与の触手にと、状態異常攻撃を駆使くししてくるボス相手にみんなはへとへと。


 コトハとフィイはイカ墨まみれで「最悪」といった顔をしている。帰ったらさっさと風呂にでも入らせてあげよう。


「おにいちゃん、ボスからこんなのがドロップしたよ!」


 リズが戦利品を手に抱えてやってきた。


 ゲソ足、イカの輪切り、クラーケンのくちばし、クラーケンの目玉、イカエキス、オパールなどなど、消耗品から強化素材まで豊富なラインナップだ。成果としては悪くない。


「このびんに入っているイカエキスはどうやって使うのだ? くちばしや目玉など、その他も有効な活用方法が思いつかないのだが」


 フィイが言った。


「武器の生産に使うんだ。素材を集めると〝クラーケン二刀〟や〝クラーケンボウ〟などのレア武器が作れる。ひとまずはリズに渡しておいた方がいいかな。カタクラフトは生産スキルにけているし」


「クラーケン二刀ってどんなの? もしかして今のフェンリル二刀より強いのかしら」


 コトハが興味ありげに割って入った。


「もちろん。武器攻撃力も高いし防御力貫通も付いてる。もし作れればしばらく装備更新はしてなくていいだろう。――一応クラーケン武器にはデメリットもあるけど」


「デメリットってどんな?」


「持つところがぬめぬめして気持ち悪い」


「……」


 やっぱりフェンリル二刀のままでいいわ。無言のまま硬直している彼女からは、そのような言葉が聞こえてきた。


「ペルも大活躍だったな。数多の死霊しりょうを操って敵をほうむる――まさにネクロマンサーって感じの働きだったぞ。だてに毎日ソロ周回してないな」


「召喚スキルもすごかったけど、あれも良かったわよね! ほら、デカイ犬が炎を吐くやつ! あれは見ていて爽快だったわ!」


 コトハが声高に言うと、


「ケルベロスのブレスなのだ。クラーケンを焼き尽くす様は、確かに圧巻であったぞ」


「リズもお犬さんに乗りたい!」


 フィイとリズもまた彼女を称賛する。


「うぇへへへ、そうであろうそうであろう! 我のジョブこそが世界最強なのだ!」


 ここぞとばかりに高笑いを決めているペルは、褒めてもらえて嬉しそうだ。


 彼女がいればより高難易度のクエストに挑戦できるだろう。俺たちはLvが負けていることだし、早く追いつかないと。


〝冒険者アルトよ、魔王を倒すのだ〟


「――っ!?」


 その時、どこからともなく男の声が鳴り響いた。声質はやや機械音声っぽい、谷底のIDと聞いた時と同じ声だ。


「またこの声!? ま、まさかほんとうにお化けとかそういうのじゃないでしょうね!」


「ククク、きっとこれは海産物の怨念おんねんなのだ……茹でられたカニやイカが、死後に強まる念を残して冒険者たちを……」


「おにいちゃん、リズたちはここで食べられちゃうの?」


 わけのわからない怪奇現象イベントによって、ギルメン一同大騒ぎ。こんな演出は前作になかったが……やはり誰かが意図して細工したものだろうか。


 そして今度はわざわざ俺の名前を指名してきた。明らかに何者かが俺を魔王の元へと誘導している。俺を知っているということは魔人の連中繋がりか。


 いや――そう判断するのは早計かもしれないが、どちらにせよきな臭いことこの上ない。


「目的が気になるところだけど……いま考えても仕方ないな」


 ギルドメンバーたちは、早く帰還きかんしたそうに出口付近に集まっている。気味が悪い場所にいつまでも居たくないんだろう。


 ひとりで悩んでいても結果は出ない。この剣に関しては後でパーシヴァルにでも相談してみよう。


 俺たちはポータルに乗って浜辺を出た。

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