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「見たかこれが俺たちの実力さ! あいつらに目に物見せてやったぜ!」


 決闘に勝利したタウたちが声高に叫ぶ。


 これで狩場でのいざこざは一件落着したのだが、何とも穏便おんびんにとは程遠い終わり方だ。それでも最後は決闘でキリをつけるとは、冒険者らしいといえば冒険者らしい。


「あれでよいのだろうか。いまいち解決とは言い難いと思うのだ」


 浮かない顔でフィイが言う。コトハとリズも微妙な面持ちだ。


「俺もそう思うけど、一概に何が正解とは決めかねるトラブルだったからな。冒険者である以上、戦ったら自己責任だしある意味分かりやすいんじゃないかな。勝者が正義っていうのは」


「でも暴力はいけないんだよ? 争うのはよくないってリズ知ってるもん!」


 リズがえっへんと胸を張って言った。とても素晴らしい心構えである。是非ともうちのバーサーカーに復唱して欲しい。


「おい、いつまでのんびり話してんだ。次はだぞ」


 予兆もなく、タウが俺たちの会話に割って入った。言っている意味が分からずに沈黙していると、彼の顔つきは険しさを増すばかり。いったい何に怒っているのだろう。


「どうせあんたらはあのテミルとかいう奴らとグルなんだろ? はたからこそこそとていて気持ち悪い。――いいぜこの際だ、あんたらとも白黒つけようじゃねえか」


「――はあ? グルって何言ってんだよ。俺はどっちにも肩入れしてなかっただろ」


「そういうのはいい、誤魔化そうったって無駄な話だ。あんたらからゲロ以下の臭いがぷんぷんするんだよ。どうせこの後、俺たちの邪魔をしてくるに決まってる」


 したり顔で話すタウはどうやら本気で言っているらしい。どうも彼は重度の妄想癖をわずらっているようだ。きっとテミルも同じような感じで絡まれたんだろう。ようやく事の真相がハッキリした。


「モンスターの討伐よりも難癖なんくせをつける方が上手いようだな。冒険者ではなく当たり屋に転職したらどうだ」


「何をふざけたことを。まさかお仲間がやられてビビってるのか?」


 未だ挑発で返してくるタウはよほどの自信家だ。


 ここまで盲目的だと呆れて怒りも湧いてこない。


「言っておくけど俺たちの平均Lvは175。見境なしに喧嘩を売るのも大概にしておけよ。どうあがいてもお前たちじゃ勝てない」


 今の一言は本心からの警告だった。無益な戦いはしたくないし彼らを打ちのめそうという気もない。だけど――それでもタウパーティー一同の反応は失笑だった。


「いったい誰が誰に勝てないだって、本当に笑わせてくれるぜ! Lvは確かに重要な要素だ。だがそれだけで全てが決まるわけじゃねえ!」


 こいつは……俺たちのことを知らないんだろうか。自分で言うのもなんだけど、今じゃそこそこ名の売れたパーティーだと思ってるんだけどな。


「タウのパーティーメンバーたちもそれでいいのか? いつまでもこんな奴の言うことに従ってるとろくなことにならないぞ」


「何を……タウさんは世界で一番のパーティーリーダーですよ!」


「そうだそうだ、あんたなんかに何が分かる!」


 光の速さで彼のパーティーメンバーその一と二に反論されてしまった。そして、


「まさかここまでデカい口を叩いておいて逃げるわけじゃねえよな。言っておくが俺たちの連携は完璧だ。泣いて謝るなら今の内だぜ」


 もう勝ったつもりでいるタウは満面を笑みで彩っていた。


 ここまで煽り散らかされても、正直俺はまったくやる気がない。やる前から結果は既に見えてるし、怒りよりも呆れが勝っている。できれば無視して切り抜けたい。


『……』


 だけどの顔色が途轍とてつもなく悪い。つまるところ決闘は避けられず、タウは不運だという他ないということだ。せめてもの情けとして十字を切っておいてあげよう。


「急になにいのってやがんだよ、もしかして命乞いか?」


「ペテン師の御託ごたくはもういい。さっさとパーティー決闘の申請をしてきたらどうだ。それで全てが分かるよ」


「小生意気だな、いっぱしの冒険者を気取ってやがる。それじゃあお望み通り――」


 俺たちが相手をしてやるぜ!


 タウの気勢きぜいの良い声音と、パーティーメンバーたちの得意げな顔は、彼が宣告してからたった一秒も持たなかった。俺が決闘申請の承諾ボタンを押した時のことだった。


「なっ――は、はや――」


 コトハが瞬時にバーサーカーⅢを発動。大気を裂いて駆ける二刀少女に反応できる者はタウパーティーにひとりとしておらず。


「う、うそだろ、そんな……お前ら!」


 プリーストとメイジが即刻ダウン。それぞれたった二振りで倒してしまったコトハの火力が恐ろしい。フィイとリズからバフを受けてとんでもないダメージを叩き出している。


「くっ、と、止まれ、ストップ!」


 クロノジョブが行動妨害スキルを発動。これにはしめたとほくそ笑むタウたちだったが、


「あ……」


 バーサーカーⅢ状態のコトハには一切の状態異常効果が通じない。


 総身そうみから紫色のオーラを放ちながら、ゆるりと距離を詰めてくる狂戦士を前に、彼らはすっかりおびえて声すら出ない有様だった。


「ひとつだけ忠告しておく。パーティー決闘において連携は大事だ。でもだからと言って連携だけで勝てるほどこの世界は甘くない。LvとPSに差がありすぎるとそもそも戦いにすらならないんだ。覚えておくといい」


 はたして俺の言葉は彼らの耳に届いたのか否か。


 コトハがフェンリル二刀を振り下ろすと、情けない男たちの絶叫が鳴り響く。


 全滅したタウパーティーはバルドレイヤへと強制送還された。フィイの言っていた通り、争っていた二パーティーが喧嘩両成敗となってしまったのは何とも皮肉な結末である。

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