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 カタクラフトの強みは手数の多さにある。リズがスキルによって召喚した機械仕掛けの守護者たち――イージスを手元のパネルで操作するのだ。ちなみに同時に出せる数は五体が最大。


 よってカタクラフト戦では純粋な対人というよりかは、モンスターを相手にするかのような対多数戦を強いられる。慣れていないとかなり厄介な相手だ。


「ちょっとリズ、あんた戦うのは苦手だって……だ、だましたわね!」


 飛来する銃弾やらミサイルやらを二刀で払い、更には同時に襲い掛かるAT-31による近接戦闘をさばきながらコトハがえる。


 普通こういうのって回避しながら隙をついていくもんなんだけど、正面から受けて立った挙句に全てを身体能力と動体視力のみでしのぎきるって、こいつやっぱり化け物だな。


「わたしはね、イージスはわたしじゃないもん♪」


「む、むむむむむむ……」


「ほらやっちゃえイージス! はやくおねえちゃんをたおして!」


「年下の子になんか……絶対に負けられないんだから!」


 リズの指示に従い、DA-79が六機のミサイルを発射する。


 降り注ぐ爆発物、容赦のないガトリング砲による追撃、そして仮借かしゃくなく猛攻を仕掛けるのは四つ手にビームソードを持ったAT-31。


 それでもスキル〝バーサーカー〟を発動させたコトハを捉えるのは容易でない。上昇した移動速度は20%。ただの疾走によって飛来物をかわしのけ、さらには迫る四本もの光束剣をフェンリル二刀で打ち払う。


 鋼と粒子の擦り切れる金属音がとどろき渡る。


 一つ、二つ、三つ、四つ……衝突を重ねる度に両者が繰り出す斬撃はよりいっそう凄みを帯びて加速する。


〝バーサーカー〟によって強化されたコトハの筋力は脅威の1,490。もし一太刀でも許せば、リズの使役する従者はことごとくバラバラにされるだろう。


 それを分かっているのか、カタクラフトの少女は鬼気迫る面持ちで指示を入力。目にも止まらぬ指さばきでパネルを操作し続けている。


 だが――それでも。


「……そんな」


 剣の打ち合いでコトハを勝ることは適わなかった。たとえAT-31の腕が四本であろうと――いやだからこそ彼女は入力を遅らせてしまったのかもしれない。


 操作量が多いということは、それだけ高い技術が必要となる。対人ではわずかな入力ミスが命取りとなるんだ。DA-79にも指令を送りながら戦うというのは、コトハという規格外の身体能力を持つバーサーカー相手に、悪手であったのかもしれない。


「はああああああああぁ!」


 ほんの一刹那いっせつなの隙をついた一太刀。コトハがAT-31の胴体に切っ先を滑り込ませる。


 直後に爆発し姿を消す近距離攻撃に特化したイージス。


 ようやく切り拓かれた進路にコトハが駆ける。


「終わりよ、リズ」


「ちがう……わたしはまだ、たたかえるんだからぁ!」


 しかし彼女必死の抵抗も虚しく、砲撃も銃撃も、コトハには何ひとつとして届かない。


 ある時は地に身体を滑らせるローリングで回避をとり、またある時は迫る銃弾をつがいの白刃でパリィする。


 防御の構えなど一切とらず、二刀をたずさえただ敵へと疾駆しっくするその様は、まさに狂戦士。


 地蔵も同然の設置砲台DA-79がコトハによって爆散される。――決着だ。


「お、おねえちゃん……」


「怖くないように目つむってて。すぐに終わらせるから」


 それでも最後はコトハらしい一面を見せる。


 バーサーカー対カタクラフトの決闘は、前者の勝利で幕を閉じた。

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