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「やああああぁ!!」


 気合の入った踏み込みでコトハが二刀を振り下ろす。


 迫りくる斬撃は、だが俺の眼前でその勢いを殺される。いかにステータスの筋力が高い彼女であっても、盾をゴリ押しで突破することはできない。こちらがきちんと構えている以上、ダメージを与えられる道理どうりはないのだ。


「も、もう一回よ――はああああぁ!!」


「無駄だ」


 再度振りかかる二刀に合わせて、盾を横にはらう――パリィだ。


「……っ!」


 近接武器でパリィを取られた者は少しの間、攻撃、回避、防御など一切の行動がとれない無防備状態となる。それはコトハもまた例外ではない。


「これで……二〇対〇な」


 右手に持ったミスリルソードの切っ先で、コトハの身体をつつく。


「きゅううぅ……」と小動物のような悲鳴を上げて倒れるコトハ。またしても同じ結末となってしまったか。そろそろコトハは攻め方に工夫が必要だな。


「さすがアルトくんなのだ、コトハくんをこうも簡単に倒してしまうとは」


「俺はもともと対人勢でもあるからな。ワンパターンな攻め方をされればこうなる。……本番までにもう少しくらい鍛えておかないと」


 バルドレイヤで最も強いPVPプレイヤーを決める都市戦開幕まで、あと二日。


 今朝、カーラバルドから届いた都市戦の詳細が記されている〝招待状〟を見たコトハが、こんなことを言い出したのがこと発端ほったんだ。


〝ねえアルト……都市戦、わたしも出てみたいんだけど……ダメかな〟


 特にダメな理由もなかったので二つ返事でOKを出した。自分の実力を確かめたいだとか、もっと強くなりたいだとか、きっと彼女なりに思うことがあるのだろうから。


 幸い、空きはまだあったようでカーラに問い合わせたところ出場枠を確保してくれた。何はともあれ都市戦までたった二日だ、あまりのんびりしていられる余裕はない。


「しかし便利なものではないか。通常、決闘で敗北した者は長時間ダウン状態になるというのに、ここではすぐに起きれるのだな。デスペナルティが発生していないようだ」


 地に伏してからものの数秒で立ち上がったコトハを見て、フィイが言った。


「それがギルドハウスの〝訓練場〟だ。ここでは決闘のルールやデスペナルティの有無を自由に設定できるんだ。つまり対人の腕を上げるには絶好の場所だというわけさ」


「――それはそうだけど、こうも一方的だとちょっとへこんじゃうわ。もう少しアドバイスしてくれたっていいのに」


 コトハがいつになくムッとした顔で歩み寄ってきた。


「言っただろ、真正面から攻撃するだけじゃダメだって。特にコトハは同じタイミングで仕掛けてくるから分かりやすいんだ。あえてずらすとか、攻撃する振りとかしてフェイントをかけないと」


「そんなこと言ってもアルトは全部パリィとってくるじゃない! それにわたしが仕掛けるまでずっと盾構えてるもん!」


「それは……悪い、コトハがを突破できるようにしたいんだ。後出しばかりっていうのは、俺も好きでやってるわけじゃない」


「うううぅ……」


 コトハがやめてよと目で訴えてくるが、ここは心を鬼にしなくてはならない。


 対人には〝ガン引き・ガン盾〟と呼ばれるかなり厄介な戦法がある。


 これは名前通り、相手が攻撃してくるまでガンガン引いた位置取りをする、盾を構えて後出し攻撃をする、というまあまあウザイ戦法だ。


 決闘の覇者を決める都市戦では対人に慣れている者も多く、この戦法が多用されるだろう。


 つまりガン引き・ガン盾ファイターを突破せずして、勝ちあがることは難しいのだ。

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