095


「もしよかったら俺たちのパーティーに入らないか? コロシアムを周ったり、釣りをしたり、俺たちは毎日楽しくやれてるし、リズにとっても居心地のいい場所になれると思うんだ。どうかな」


「……」


「リズ?」


「あ、えっとごめんね。その、リズなんかをさそってくれるって思ってなくて、それで」


 リズは自信がなさそうに視線をきょろきょろさせている。


 彼女が言う通り、今までろくにパーティーを組んでもらえなかったんだろう。まったくここの冒険者は見る目のないやつらばかりだ。強いアタッカーだけを揃えてもパーティーは機能しないんだぞ。タンクやバッファーはかなり重要な役割を持っているのに。


 実際、ここ数日コロシアムに挑戦する冒険者たちを見ていたが酷いものだと全員アタッカーでタンクやバッファーは零なんていう編成もざらにあった。


 この火力至上主義的な考えは初心者が最も陥りやすい罠だ。まともにジョブの役割が機能していないゲームならともかく、ADRICAじゃそんな真似は通用しない。


 むしろ補助役のジョブこそが主役となるダンジョンも数多くあるのだ。


「リズは悪くないよ。絶対に力になれるから俺たちのパーティーに入ってほしい」


 彼女へとパーティーに加入するための招待を送る。


 眼前に表示された招待画面を見て、さらに混乱するリズ。承諾か拒否かで迷っているようだったが、決心ついたリズはやがて承諾ボタンにタッチした。


〝新たなパーティーメンバーが加入しました。リズベット、職業カタクラフト、Lv160〟


 無機質なSEが鳴り響く。俺たちに新しい仲間が増えた瞬間だった。



      ◇



「じーーーーー」


 とわざわざ凝視しているさまを口にしてくるコトハに、


「ジーーーーー」


 便乗してジト目のまま見つめてくるフィイ。


 SEは同じメンバーである彼女たちにも聞こえていたようで、リズが仲間になった途端、二人は一目散に駆けつけてきた。


 そして俺をおにいちゃんと呼び、すり寄ってくるリズを見ては「この女たらしが」みたいな視線を向けてくるのである。


 俺、無実なんだが。


「ねえフィイ、突然アルトに妹ができたわよ。今度はどんなチートを使ったのかしら」


「しかも既に好感度がMAXなようなのだ……何でも知ってるアルトくんはきっと、女の子の攻略手段も熟知しているのだ……」


 なにその不名誉な勲章。おかしいな、俺のやっていたADRICAはMMORPGでGalギャル Gameゲームじゃなかったはずなんだが。


「えへへ……リズを拾ってくれたのはおにいちゃんだけ……おにいちゃんすき……」


 二人にもお構いなしに、リズが俺の腹部に頬をすりすりしてくる。


「……」


 その瞬間、ピシっと空間に亀裂が入る音が鳴った。いや鳴ったような気がした。


 コトハとフィイが剥き身の刃みたいに鋭利な眼差しで見つめてくるのである。


 ちょっとこれは誤解というか修羅場に過ぎるのでは?


 帝釈天インドラさまが二体もいる修羅場なんて、阿修羅あしゅらさまだって乗り越えられない。俺は今日生きて帰れるのだろうか。

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