036


 こんな男の相手はするだけ無駄だ。ここは無視が王道だろう。


「何だ何だ、つれねえじゃねえかよぉアルト。――見たところお前たちは三人パーティーみてえだな。おじょうちゃんにシスターさま、チート野郎に寄生きせいできていいご身分だな。不正を働いて手に入れたクエスト報酬はうまいか?」


「――なに?」


 だが、聞き捨てならない言葉にふと足を止めてしまう。


「貴様、俺のパーティーメンバーを侮辱ぶじょくしたな?」


 するとヴァーティは俺の返事が嬉しそうに頬を緩めてから、


「当然だ、インチキパーティーを擁護しようって方がちゃんちゃらおかしい。クエスト報酬はどこから出てると思ってるんだぁ? 俺たち市民の血税だぜ。それが得体の知れない冒険者に渡って、見過ごせるほうがどうかしてる」


 聞くにえない暴論を振りかざした。


 何をもっともらしいこと言ってんだか。こいつらは俺たちがねたましいだけだろうに。


「プロフィールを見るに、三人の内二人は新人冒険者のようだな。はっ、まったく笑わせてくれるぜ。どうやって新人がそこまで強くなれるっていうんだ? 数十年、冒険者を続けてきた俺なら分かる。こいつらのやってることはきな臭えってなぁ!」


 とどめとばかりに喝破かっぱしてくる隻眼せきがんの男。


 ここにきてまさか年数マウントをされるとは。「俺は何十年やってるから俺が正しい」なんて、MMOじゃ煽りのテンプレすぎて言葉も出ない。


 年数を重ねたかどうかではなく問題はどれだけやり込んだかだ。


 このまま立ち去ってもいいんだけど、それでもコトハやフィイを馬鹿にしたことは許せない。彼女たちの汚名を晴らすためにもやる。


「いいだろう話を聞いてやる。お前の望みは何だ」


 ヴァーティは待ってましたと言わんばかりに舌なめずりした。


「決闘だチート野郎。この俺と決闘しやがれ!」


 そしてまったく予想通りの言葉と共に、聖堂内のざわめきは更に大きく広がった。


「ああ受けて立とう。決闘のルールは〝一本勝負、今のMAPを適用、消費アイテムの使用不可、ワンショット制〟で異存ないか」


「な、何を――」


 ヴァーティが目玉をいて口角泡こうかくあわを飛ばした。


「〝ワンショット制〟の意味を知ってんのか!? それはどんな攻撃であっても、先に一発受けたら終わりの、いわば速さを競い合う決闘ルールだぜ。なのにたかがファイター風情ふぜいが〝ガンスリンガー〟である俺に敵うと思ってんのか!?」


 なるほど、あおってくるだけはある。ヴァーティという男はそれなりに知識があるらしい。


 あいつの言う通り、ワンショット制とはどんな攻撃であっても受けたら即ダウンとなるスピード勝負。


 こと対人戦において、強職に分類されるガンスリンガー系列に、射程距離でも攻撃速度でも劣っているファイター系列のジョブがこのルールを適用するのは自殺行為に等しい。


 ――だからこそ、俺はヴァーティ有利のルールを選択した。そうでもしないとこいつは、俺を理解できなさそうだから。


「どうした? 決闘申請が通らぬようだが、まさかその〝ファイター風情〟に恐れているわけではあるまいな。自称ノルナリヤ随一ずいいちの冒険者、ヴァーティよ」


「……よくぞ言った、必ずぶっ殺してやるよこのチート野郎!」


 ヴァーティが、決闘申請の画面を割れんばかりの勢いで殴りつける。その拳の先は承諾ボタン。そして直後に沸き立つ大衆たち。いよいよ決闘が始まる前兆だった。

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