第5話

 廊下が、血だらけになった。


 まだ、彼女はやめない。


 気付いたことが、ひとつ、ある。


 彼女の姿が見えないのではなく、彼女が、誰かに触れている間だけ、周りから認知されなくなる。こうやって廊下のど真ん中でまぐわっていても、誰にも見えていなかった。


 彼女。小さなうめき声をあげながら、まだ動いている。


「おい」


 彼女。泣いていた。


「おい。痛いだろ。やめたほうがいい」


 彼女。激しく求めてくる。


「つらいだけだぞ?」


 口を塞がれた。キス。ひたすら、何かを探すように、舌がうねる。


 彼女。


 こうやって、誰かを愛したかったのだろうか。


 見つけてほしかったのだろうか。


 配信者と薬剤会社に言われたことを、なんとなく、思い出した。見つけてあげてください。救ってあげてください。

 こういう、こと、だったのだろうか。


 腹の上で動いている彼女と、体勢を入れ換えた。少しだけ、強く動く。彼女が、声にならない小さな叫びをあげて、痙攣した。動かなくなる。

 彼女の身体から離れないように、そっと服を直して、保健室まで彼女を抱き抱えて歩いた。保健室には、正義の味方の知人がいる。


 保健室に入って。問いかける。


「俺。何人に見えますか?」


 保健室の先生。いぶかしげな顔。


「ひとり、だけど」


「そうですか」


 彼女を、保健室のベッドに寝かせて。身体から離れる。


「あっ」


 先生にも、見えたらしい。


「お願いします。急に、廊下でセックスしてきました。血がすごくて」


 先生。彼女の脚を開いて、中に手を突っ込んでいる。


「手伝って」


 こちらを見る顔が、真剣だった。


 言われるまま、彼女の脚を抑える。気付いた彼女が、暴れはじめた。先生は、気にせず彼女の中をいじくっている。

 彼女がふきだした液体が、先生の顔や手を濡らしていく。血ではないのだけを、確認した。彼女。小刻みに、震えている。やがてそれも止まり、ぐったりと動かなくなった。ときどき、さらさらした液体をふくだけになる。


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