第40話 幼女を誘拐しよう!
「いやいやいや! 誘拐しようとか手を出そうとかしていないから! 俺はただ君がこんな暗い路地で寝ていたものだから心配で――」
「そうですよ! 人を急に誘拐犯呼ばわりは失礼です! それに私はご主人様と契約しているカードですから、一緒にいるのは当然です!」
「いやいやクロン、君はさっき急に人を幽霊呼ばわりしてただろ」
ぼーっと目の前で立っている濃い茶髪の幼女は、コテンと首を傾げた。クロンの助け舟があったことで、誘拐犯であるということには疑問を持ってくれたようだ。ナイスだクロン!
「えぇと……じゃあ、うんめいのひと?」
「えっ――」
運命の人? 運命の人とか、なんかまだ夢から覚めていないようなことを言ったのか今。
俺は白馬に乗った王子様じゃない。というか全く面識のない幼女とお付き合いとか王子様とか犯罪臭が増してくる!
ていうか、なんでクロンは白い目を向けてくる!? なんでだ! 俺がロリコンだとでも思っているのか!?
「うらないにでてた。もうそろそろうんめいのひとがくるから、そのひとといっしょにいたほうがいい」
「なんだ占いの話かぁ。悪いけど、たぶん俺は君の運命の人じゃないよ。この街に来たばっかりだし、君の名前も誰なのかも知らないし」
「うぅん……じゃあもういっかいうらなう」
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そう言うと幼女は懐から
次にそれを逆さにし、その面についた小さな口から一本の棒が顔を出す。神社に置いてあるおみくじみたいなものだろうか、幼女は飛び出たそれをつまんで固定して、筒の向きを戻して内容を読み取った。
「うーん、誤解にちゅうい?」
「そっかそっか誤解かぁ。占いの通りに俺は君の運命の人じゃないよ。誤解だ」
「え? あなたが誤解にちゅういだよ?」
「は?」
この幼女じゃなくて俺が誤解に注意? なんだそれは。
「だからあなたはわたしのうんめいのひと」
眠たそうにも見える目が俺をじっと見つめる。血液がそのまま透けて見えているような赤い瞳で、何だか取って食われそうな感じがしてくる。
見た目は幼女なのに、なにか、とてつもなく大きなものと対峙しているような……。
例えるのなら、巨大な怪物の目と鼻の先に手足を縛られた状態で放置されているような感じだ。
だがしかし、しばらく見つめられているとこの子がまた寝そうになった。どれだけ眠たいの。
「おい! お前ら道の真ん中で何くっちゃべってんだ! 邪魔なんだよ!」
「わわっ! すみません! 今よけますから! ほらっ、ご主人様」
大声に振り返ると、ドクロの顔をしたモンスター(人?)が3人ポケットに手を突っ込んでこちらにガンを飛ばしてきていた。前に立つリーダーを立てるように、後ろにいる二人が
どう見ても穏やかな雰囲気ではないし、さっさと何も言わずに退けたほうがよさそうだ。
忘れてたけど、ここは不良とかならず者が根城にしていそうな暗い路地。こういう人(?)がいつ来てもおかしくなかった。
「ごめんなさい、すぐどきますんで……ほらっ、君も」
「すぴー、すぴー……」
いやこの状況を前にして寝るのか!? というか寝るの早くないか!? さっきも寝ていただろ!
まずい! もたもたしていると、後ろにいるガイコツ達の機嫌が――
「あぁん? 俺達を邪魔して礼一つで済むと思って――げっ、そいつは!? いや、その人は!?」
「やべぇよ兄貴! あれに手を出したらプロメの奴がヤバくなるよ!」
「まずいよ兄貴! プロメの奴どころかあの寝ているウルティも手を出したらまずいよ!」
「くそっ! 覚えていやが――いや、何もなかったことにしてください! それじゃ! お願いだからプロメには何も言わないでえええ!」
いったい何だったのだろうか。ガイコツ三人はこのウルティという名前らしい幼女を見た途端に手を振り上げて逃げ去ってしまった。
プロメがヤバくなるということは、プロメという人がこのウルティの保護者なのか?
「な、なんだったんでしょう今の人達。すごい勢いで逃げていきましたね。」
「すやすや……」
「さあ? で、どうしようか。このウルティという子、ここに放置しておいたらますます危ないんじゃないか? さっきの人達は逃げ出していたけど、もしかしたら怨みを抱いている人とかいるのかも……」
「そうですねぇ。うーん、確かに危ないので何とかして起こしましょう! もしもーし、起きてくださーい!」
だが今度の眠りは深くふかーく入ってしまったのか、声を張ってもくすぐったりしてもウルティは起きない。さっき以上に耳元でわあ!と声を出しても今度はぴくりとも反応しないようだ。
さてどうしようか。
「ぜぇ、ぜぇ。まったく起きません! ……それにしてもプロメですか、もしかして
「なんか言ったか? クロン」
「いえいえ何でもないです! それより子はどうしましょう?」
「人通りの多い場所にまで連れてって、迷子管理とかしてくれる人に預けるか?」
「そうですねぇ。プロメという人が保護者ということはわかりましたし、連れていきましょう」
「引きずっていくわけにもいかないし、おれがおぶってくよ」
立ったまま寝ているウルティに背中を向けて屈み、クロンに協力してもらって足を抱えてウルティを背負う。バッグはクロンに持ってもらった。
こんなところで一人で寝ているのは絶対に危ないのだけれど、今の俺の絵面も絶対に危ないだろうな……。
「それにしてもご主人様」
「ん、どうしたんだクロン」
「これってまるっと誘拐ですよね? いや実際は保護なんですけど」
「き、緊急時の対応だから……」
ウルティという荷物を背負って、再び俺達は日光が差さない路地を歩く。
そしてしばらく歩くと、様々な人のざわざわとした声が聞こえてきて、前方に空いている路地の出口が明るさを放っていた。
「やっと出口です!」
路地を抜けたとたん、急に視界が開けて人通りが急激に多くなった。
街の至る所に括りつけられた風船、花、紙細工などの装飾物。大勢の人に紛れてショッピングを楽しむ亜人やモンスター達。
さらに広く設けられたスペースでは
「あっ、ここ――」
クロンがどこか安心したようにほっと息を吐いた。そして目的地の1つに到達したことがわかったのか、ぱあっと顔が明るくなった。
「レクタングル大広場です! 宿を探す前でしたけど、レクタングル大広場にはつけました! これでここに来るときは迷いにくくなると思います!」
宿屋を見つけた後に来る場所だったか。だけど先に付けたのなら都合がいいのかもしれない。
これぐらい広い場所なら道をよく知っている警備員もいるかもしれないし、そこにウルティを預けることもできる。
そして人々の賑わいとクロンの声が刺激となったのか、おんぶしていたウルティが身じろぎをして――。
「んぅ……やっぱりあなたはゆうかいはん?」
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