第34話 自分がいる理由
「えっと、まずは朝陽さん。本当に助けられるか。昔、己が強くなるために人やカードとなれるものを手当たり次第に襲って取り込むという事件がありました。以前にも会ったんですよ、
「それで――」
「はい。
そうか、吸収された人たちはちゃんと元に戻るんだな。じゃあ俺が犯人を倒せば、被害者は全員元に戻るんだ。
これ以上被害を出させたくはない。考えすぎと言われるかもしれないけど、俺がこの世界に転生したのは、この事件を解決するためなんじゃないかと思ってきた。誰かが助けを求めている。そして、人を助けなきゃならない俺はここにいる。
「ですが安心しないでください。ここからクロンさんの質問に関わってきます」
ナフの顔がより真剣なものになる。少々荒れた道に入ったのか、ガタゴト、ガタゴトと音を鳴らして俺達が乗っている車が揺れる。前の言葉から一呼吸おいてナフは続きを話し始めた。
「クロンさんの質問、吸収された後でも生きているか。これは怪しいところと言えるでしょう」
「ど、どうして怪しいんですか? 私のお父さんや、お母さんは大丈夫なんでしょうか……」
「たぶん竜族みたいに体力のある人なら長期間でも大丈夫だと思います。生命エネルギーを吸収し続けるために、少しの生命エネルギーを返さなければならないようなので」
「返す? 生き続けさせるためということかしら?」
クロンとリームの心配事に対して、ナフは真剣な表情を崩さずに答えていく。正直に答えてくれているけど、聞きようによっては無慈悲だと言ってもいい。残酷な真実を語っていくのだから。
「そうです。その過程で、体力の無いものはそのまま死んでしまったり、外に排出されて放っておかれたりしたそうです。実際に先程言った犯人から排出された時、何人かが亡くなったと聞いています……」
長い時間は残されていないってことか。体力のある竜族は全員生き残るかもしれないけど、もし病気の人達や体力の無い種族が吸収されていたりなんてしたら大変だ。早い内に元凶を見つけて倒さなければならないってこと……。
「私気になります。何日ぐらいが限界、とまではわかりませんよね?」
「すいません、さすがにそこまでは……。最後にリームさんの質問。その元凶が誰なのか、どこにいるか。」
俺、クロン、リームの3人はそれを絶対に聞き逃すまいと一切の物音を立てないようにする。すぐにでも力を手に入れて、そいつを倒しに行きたい。やっぱり犯人は魔王とかそういう存在なのか? そしてそいつがいる場所は……
「その元凶は……」
「その元凶は……?」
「元凶は……」
ナフは押し黙った。名前を口にするのも恐ろしい程の人物なのか? カードを吸収するってくらいだし、とんでもない魔物や魔王みたいな存在がこの事件に絡んでいるとか……
ようやくナフはぎゅっと結んでいた口を開いた。その犯人の名は……
「……わかりません。僕もその情報までは持っていません。わぁ!? もったいぶったわけじゃないんです! ごめんなさいごめんなさい!」
「わからないならさっさと言ってくれよ! 怒るわけじゃないんだからさぁ!」
「今の溜めは何だったんですかぁ!」
「……今の質問には恐れずにさっさと言ってほしかったわ」
「ひぃ!? ややや、やっぱり怒ってるじゃないですか!」
恐ろしいんじゃなくて、わからないから言いづらかっただけかよ!
素直に言ってくれないから期待だけが空回りしてしまった。ああ、時間に余裕があるようには思えないのに、犯人の手掛かりなしかぁ……
「でっ、ででっ、でもですね!? 最近は王都セントネラとクロムベル間の地域、さらに今回みたいにクロムベル近郊で似たような事件が多発していると聞いてます! つまり、そのっ、ええと……」
「もしかするとクロムベルに、またはその近くに犯人がいると言いたいのね?」
「そうです、リームさん。ああぁ……」
たくさん喋って疲れてしまったのか、ナフは額に手を当ててまた黙り込んでしまった。ため息まではいてしまって、よっぽど疲れたのだろう。普段あまり人と喋らないように見えるし。
けど、俺達の目的は決まった。クロムベルの近くにいそうな元凶を何としても探し出して打倒し、取り込まれた人たちを救出する!
タイムリミットはわからない。俺とクロン、そしてリームの力で果たしてどこまでやれるかもわからない。でもやるしかないんだ。
「クロンとリームが傷つかないで戦えるように、戦わなくても済むように俺はもっと強くなるよ。絶対にクロンとリームの仲間たちを取り戻そう」
絶対に救出してこれ以上犠牲を出させないと覚悟を決めた俺は振り向き、クロンとリームと目配せし合った後、互いに頷くのだった。
だけど、リームは一度目を逸らして……。
そして、その誓いにナフが一声かけてきた。
「ちょちょちょ!? 朝陽さんが戦わなくても、
「うん、多分そうなんだろうな。でもさ……」
目を閉じると、あの日命を絶ってしまった友人の『どうして助けてくれなかったんだ』という悲痛な顔がまぶたの裏に映ってしまう。助けを求めている人がいたら、俺が助けになってあげなきゃ駄目なんだ。
「俺、みんなを助けてあげなきゃいけないから」
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