第19話 ご主人様!?
通常の勝負だとモンスターの攻撃に実害は出ないはずだけど、最後のクロンの一撃はよっぽど強烈だったようだ。
カルンガはその場に崩れ去り、大の字で伸びてしまった。
「カルンガの姉御が、負けたぁ!」
「おいやべーぞ! 下手に商品を奪われないように撤退だ撤退!」
「あっ! その水色の竜族と荷物と
まさか強力な自分たちのリーダーがやられるとは微塵も思っていなかったんだろう。
あくどい商人達と
リームを助ける鍵は置いていったけど、できれば他の捕まっている奴も助けたかったな……。
果たしてリーム以外に人と同じ心を持った生物がいるかはわからないけど。
「でもこれで、なんとかリームだけは……」
「アサヒさん?」
あれっ? 何だろ、目の前がくらくらする。
まさか、カルンガのフォートレスラーに頭を叩きつけられた後遺症が――?
クロンが、こっちに走ってきて――
「アサヒさん!? ねぇ聞こえる!? アサヒさん! どうしようリーム、アサヒさんが――」
目の前にクロンの顔がぼんやりと浮かぶ。
最後にカチャリと何か硬いものが近くで外れたような音がして、俺の意識はもう一度沈んだ。
――――
「ん、あれ……? 天井がほんのり赤い……えっ、外!?」
部屋で寝落ちしていたのか? 変な夢見ていたなと思っていたら、俺は川のせせらぎが聞こえる草の上で横になっていた。
確か俺、車に跳ね飛ばされて、異世界に来てカードゲームを?
嘘だと言いたくなるような話だけど、隣に龍へと変身する少女であるクロンが添い寝していたことが、それは現実に起こったなんだと俺に教えてくれた。
彼女の口が少し空いていて、可愛らしく寝ているその姿にドキッとしてしまう。
自分より少し年下だという印象は受けてたし、多分高校入学したてぐらいの年齢だよな……。俺はロリコンじゃない、ロリコンじゃないぞ、うん。
「よかった、目が覚めたのね」
「えっと、リーム? よかった、ちゃんと鍵外れたんだな。酷いこととかされてなかったか? ……あれ、頭痛がしない」
近くにはリームが腰かけていた。青いスカートのドレスみたいな服は水色の髪と合わせて、朝の海を見ているようだ。
こんなに綺麗な人なら、確かに人さらいとかガラの悪い人にちょっかいを出されてもおかしくないよなと思ってしまう。
割とあっさり、クールにあしらってしまいそうな気はするけど……。
それよりもだ。頭を強く打ちつけられたと思うんだけど、妙に頭がすっきりした感じだ。強く打ちすぎておかしくなったか?
「ふふっ、目覚めたと思ったらさっそく人の心配するのね。頭に受けた衝撃は大丈夫よ? 私の力で癒したから。それでもあまり無理はしないほうがいいと思うけど」
「癒した? 頭冷やすとか、医者に診てもらうこととかできたの?」
「似たようなものよ。私の属性は静かなる治癒の水。力や魔法による暴力は禁止されているけど、私の魔法は回復だからペナルティは受けないわ」
やっぱり暴力とかにはペナルティが発生する世界なのか。だからカルンガ達は大人数いてもこちらに乱暴な手段を用いてこなかった。
俺もなるべく手を出すなんてことをしないように気を付けよう。
ところで、俺は先程までクロンとリームを助けたい一心でブレイクコードをしていた。そしてこの辺りがどの国とか地方で、どこに行けばいいのかとかすっかり忘れてしまっていたのだ。
博識そうなリームなら聞けば教えてくれるだろう。
「えっとリーム、リームさん? ちょっと聞きたいことがあるんだけど……あっ」
ぐぅうううう、と腹の音が鳴ってしまった。思えばこの辺りに転移してきてから何も食べてないからなぁ。
背負っているバッグの中には2本入りのカロリーメイクが入ってたっけ。それと少しの量のキャンディー。
水が無いから口がぱさぱさしてしまいそうだけどしょうがない。
いや、クロンとリームももしかしたら何も食べていないんじゃないか? 彼女たちに分け与えたほうがいいかなと考えた時、リームはくすくすと笑っていた。
腹の音が大きく鳴ってしまったのを笑っているのだろうけど、不思議と悪い感じはしない。
いや、むしろクールに見えていたリームの少女らしい姿が見れて眼福かもしれない。美少女の笑顔っていいものだ。
「ごめんなさい。あまりにもしっかりはっきりと聞こえてしまったものだから……私の荷物に干し肉があるの。3人では満足できる量ではないかもしれないけど。ほらクロン、起きて。アサヒさんが目を覚ましたわ」
「ふにゃあ。リームゥ、まだ夜ですよぉ……っ!? はっ! ご主人様が起きたんですね!? よかったぁ!」
「えっ、ご主人様って?」
跳ね起きたクロンがこちらを見るなり、まるで俺がクロンの主であるかのように彼女は『ご主人様』と口にした。
意味が分からない。俺とクロンの契約はリームを助けるための一時的な契約であったと思うんだけど?
呆気に取られている間にクロンはばっとこちらに飛ぶように近づいて、俺の両手を握った。
女の子に手を握られるなんて久しぶりの感触だ。細くて暖かくて、さらっとしていて……。
って、少女の手の感触を分析するなんて変態みたいじゃないか。それも俺より年下の子のなんて。
「この子、ずっとあなたのそばを離れなかったのよ? それにあなたのことをご主人様、だなんて呼んでしまって。ふふっ。一緒に戦ってくれたことがよっぽど嬉しかったのね」
「え、えぇ……」
「私、自分からダメージを受けてしまうという役に立たないような能力を使いこなしてくれるご主人様の手腕に惚れました! 私を使っている間、ご主人様と呼んでも構いませんよね!? いえ、言わせていただきます!」
「ご、ご主人様ねぇ」
なんか弟子入りさせてくれませんか、みたいになってる!?
呼び方はあだ名でも本名でも隙にしてくれていいんだけど、ご主人様なんてメイドに言われているようでむず痒くなってくる。
もしかしたら恥ずかしさで俺の顔は赤く染まっているかもしれない。
「べ、別にいいんだけどさ。リームを助けた以上、俺とクロンの契約ってここで解約にならない?」
「あっ」
一時的な契約にするということ、忘れていたんだな? 呆けても可愛い声を出した後に絶句し、クロンの目は点みたいになってしまった。
ちょっとかわいそうだけど、これ以上クロンに無理をさせるわけにもいかないからな。
彼女達とは明日から別行動になるんだろうけど、その前にここがどこなのかとか、どんな国があるのかとか聞いておかなきゃならないな。
と、その前に食事だ……。俺の腹がもう一度鳴った後、クロンのお腹もひときわ大きく鳴った。
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