第16話 朝陽落つ
「ワタシはさらに手札のフォートレスラー ボストン・クラブを捨てて効果を発動するわぁ! このターン中だけ相手モンスターの
突如として、サイナス・クーロン直下の地面から巨大なカニバサミを腕としたレスラーが飛び出す。
そして大人一人を容易に切断できそうなその武器が、空中で龍の尻尾をがっちりと挟み込む。
『キュイアアアアア!?』
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「クロン!」
あまりに痛々しい龍の悲鳴に、とっさに少女の時の名で彼女を呼んでしまった。
尻尾を激しく振ってボストン・クラブを振り落とそうとするが、がっちりと掴み込んだハサミは離れそうにない。
やっぱり、契約してカードとなった生物は痛みを感じるんだ。竜族とはいえ、人として同じ存在が上げた叫び声なのだからなおさら心が痛む。
今の俺には彼女をどうしてあげることもできない。くそっ、くそっ!!
「さらにさらにぃ~? 続けてフォートレスラー アロー・ファルコンを捨てて効果発動! こちらはこのターン中だけ、自分のモンスターの
今度は青い羽根を生やした透明な格闘家が、サンダー・タイガーの体に乗り移るように入り込む。
すると青いオーラが
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フォートレスラーキング サンダー・タイガー
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これでサイナス・クーロンとサンダー・タイガーの
これを受けてしまえば、サイナス・クーロンを墓地から復活させる時が来る前にライフが0になる!
――勝つ可能性を掴むには、墓地に眠るあのカードしかないか。
俺が悔し気に目線を下げたのを、サイナス・クーロンは苦痛を感じながらも察したようだ。
尻尾からボストン・クラブを引きはがすのを堪えるように止め、痛みを我慢した涙声で俺に言葉をかけてくる。
『アサヒさん! 私のことは気にしないで。この勝負を諦めないでください! リームのために私も頑張ります。アイツの攻撃なんて……うぅ、平気です! だから絶対にリームを助けてください!』
「クロン、ごめん……」
「クロン…………カルンガといったわね! お願い! この勝負を中止して!」
『リーム……!?』
両手両足に
だけど、カルンガは耳をほじって聞く気なしだ。
「私はもう商品になっていいから、この勝負はあの人の負けでいいわ! だからクロンに攻撃しないで! あの子じゃ、絶対に耐えられない……」
リームは心の底からクロンのことが心配なんだ。さっきまで冷静に見えた表情は血相が変わっている。
向こうにいるサンダー・タイガーはまだかまだかと攻撃の命令を待っており、どう見てもサイナス・クーロンを完膚なきまでに叩き潰すつもりだ。
「っさいわねぇ! ワタシ、そう言うのを聞いたらなおさら虐めたくなっちゃうのよぉ! バトルフェイズよ! サンダー・タイガーでその小娘ドラゴンを攻撃!」
『リーム! 大丈夫です! アサヒさんなら必ずかって――』
瞬間、サンダー・タイガーの雷撃をまとった拳がサイナス・クーロンの頬に叩き込まれた。
その衝撃が全て彼女へと打ち込まれた後、雷虎はさらに空中で跳躍して一回転。その勢いを利用して両拳でハンマーの形を作り、何が起こったのか分かっていない彼女の頭へと振り下ろした。
硬いものと硬いものがぶつかり合う、単純でいて、それでも心をえぐるような酷い音。
一呼吸も置かずに、彼女の頭が地面に叩きつけられた。
「クロン!? っ……ああああ!! 俺は墓地の
「なんですって? あぁ、そう。最初のターンにウッド・ハンマーの手札を交換する効果で墓地へ送っていたのね」
サイナス・クーロンを殴り倒したサンダー・タイガーは、まだ飽き足らずに俺へと殴りかかってくる。
しかし、そこにいるのはミスト・ゴーストが作り出した俺そっくりの蜃気楼。
拳は何もない場所を通り抜け、これ以上の追撃は無意味と判断したサンダー・タイガーがカルンガの元に戻る。
「クロン……クロンッ!」
「クロン、そんな……」
ダメージは回避できても、ほっと一安心なんてできなかった。いそいで俺はぐったりと地面に倒れた彼女に駆け寄り、その顔に手を当てる。
彼女はうっすらと虚ろに目を開けてくれた。即死するような一撃にはなり得なかったみたいだ。それでも、それでも……こんな!
こんな痛みを味わわせるようなことをリームに強いるのか!? 明るい元気なクロンにここまでの痛みを与えて楽しいのか!?
「クロンッ、大丈夫か!? クロンッ!」
『アサ、ヒさん……』
「ごめん、俺がもっといいカードを引いていたら、うまくできてたらこんな目には」
『ア……ヒさん、前……!』
「えっ?」
彼女が必死に何かを伝えようとしている。何かあったのかと顔を上げた。
そして、俺の頭は前から何者かに鷲掴みにされ、後ろ側の地面へ叩きつけられた。
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朝陽
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