第4話 足りない!?
勝負の前に、俺が左腕に付けた明るい草色で楕円形の機械を確認する。
そうだ。俺の記憶が正しいなら、これはゲームの中で使われるアイテム『
……あれ? 実体化?
「クロン……1つ聞きたいんだけどさ。ブレイクコードによる勝負で、モンスターって実体化する?」
「え? 当然じゃないですか。召喚されたモンスターは実体化しますよ?」
「待って」
待て待て待て待て。テーブルやゲーム上での実体化ならまだしも、この流れだと確実に猛獣やアンデッドなんかが実体化するだろ。
それが実際に攻撃してくる? 冗談じゃない。
前方に立つスキンヘッドの巨漢をもう一度見る。
目元に存在するあの傷跡、実体化したモンスターによって付けられた傷じゃないだろうな?
「どうしたんですか? アサヒさん。あの悪い人をやっつけちゃってください!」
「ほら、どうしたよ。勝負する前から怖気づいてんのか?」
明らかにビビっている俺を二人は急かしてくる。まるでクロンが味方じゃないみたいだ。
まさか、俺の震えを武者震いだと勘違いしている!?
「クロン! 実体化したモンスターであの顔みたいな傷がつく!? 負けたりしたら実害出る!? それだけ聞きたい!」
「それはないですよ! 実体化するといっても、軽いエネルギーの塊みたいなものですから。それより早くあの人を倒してリームを助け出しましょう!」
よし! 傷がつくとか負けたら死ぬとかそういうものはないみたいだ!
今のデッキ内容は初期の構築に近いから不安だけど、ブレイクコードでの勝負なら喧嘩とかよりマシだ。
俺は手に持っていたデッキを左腕の
……差し込んで、どうするんだ? これ。
「おいはやくしろよ」
「待って! タイムタイム! クロン、これどうやって起動すんの!?」
「
俺は焦りながら大きめのボタンを探す。
よく見れば4つの四角いボタンのまとまりの隣に、それらより大きめな濃い緑色の丸いボタンがある。これが電源ボタンだろう。
ボタンを押すと、体のエネルギーでも吸っているのか魔力を使っているというのか、不思議な吸われる感覚が俺に走った。
さらに目の前に立つ相手のように薄くて凸型で緑色のテーブルが構築される。向こう側が透けて見えるぐらいに透明な板、という感じだ。
腕を地面から直角にしてもぐるぐると動かしても、ぴったりとそれは左腕の近くについてくる。
「おおー、ゲームのキャラたちはいっつもこんなことやってんのか。……よし! 勝負だ!」
実害がないなら怖いものはない。話が正しいならカード化の呪術だって人間の俺には効かない。
いや、負けた後のことなんて考えるな。カードゲームは気持ちで負けた時点でもう敗北なのだ。
が、ピピッというアラート共に、目の前に赤い文字で警告が浮かんだ。
不思議とその文字が読めるのだが、読める疑問より重要なのはその内容。
『デッキが28枚しかありません』
「えっ」
デッキが28枚しかない? 異世界に来て焦っていたから、デッキの枚数まで気が回らなかった?
デッキは30枚以上かつ40枚以下じゃないとブレイクコードによる勝負はできない。
じゃあ、この場は勝負すらできずに俺の負け?
「ははは! デッキが足りないのに勝負を受けるなんて初めて見たぞ! さっさとそのガキをこちらに渡して立ち去るんだな!」
こんな重要な場面でデッキが足りないなんてあり得るのかと、クロンが口を開けてこっちを見る。
当然俺も予想外のメッセージに口をあんぐりと開けてしまっている。そうだ、28枚のままデッキ構築をやめちゃった時があったようなないような……。
すると、巨漢は懐から双眼鏡のようなものを取り出し、それを通してクロンを観察し始めた。
たぶんあれを通してステータスや能力を確認するのだろう。
だけど、しばらくクロンを観察した巨漢は強く舌打ちをした。その音と苛立ちの感情を受けて、クロンがビクリと肩を震わせる。
「売り物にもコレクションにもなりそうにねーカードだな。使えねぇ。まっ、一応竜族だしそれなりの値段で売れそうかな?」
売る。あまりにも当然のごとく無情に告げられたその言葉。
クロンは絶望したようにぺたりとその場に座り込んでしまった。
竜族とはいえ、心を持つ者を勝手に捕まえて売り飛ばすような連中だ。
そのような奴らが売り飛ばした先でどのような目に遭うのかなんて俺には想像できない。奴隷の取引を目の前で見ている気分だ。
「そんなことにさせたくない」
考えろ、どうにかしなくちゃ。先程まで元気に喋っていたクロンが、あんなに元気だった女の子が酷い目に遭わされるのを黙って見ていていいのか?
ブレイクコードの勝負なんて投げ捨てて、あの巨漢に立ち向かう?
無理だ。体格に差があり過ぎる。片腕で捻り上げられてもおかしくない。
それに、簡単に暴力で勝てるような俺を組み伏せないということは、この世界じゃブレイクコードでの勝負以外は重罪とか、何らかのペナルティがかけられんじゃないのか?
「2枚。デッキに足りないのは2枚……」
巨漢を倒して、その後にリームを救うには30枚以上にしなければならない。
あと2枚……。駄目だ、この状況に対処できる
「おいおい早くそいつを渡してくれよ。存在価値のないような奴にそれほど時間かけてられねぇんだよ」
人に存在価値がないなんて言うことが許されるわけがない。
クロンだって、まだその価値を誰かが見つけてあげられないだけなんだ。クロンだって――
『私は訳あって2枚のカードになれるんですけど……その……どちらも大して強くなくて。』
「あった、2枚のカード」
俺ははっと顔を上げて、へたり込んでしまっていたクロンの隣にいってしゃがむ。
そしてある1つの提案をクロンに持ちかけた。
「その、クロン。俺は今、一時的にクロンと契約することってできる?」
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