第41話 真の謎
はじめて彼が訪ねて来た時は、本当に驚いた。彼があまりにもあの人と瓜二つだったから。
……13年前に起こった惨劇。
最初に報告を受けたときは驚いた……まさかあの惨劇の中、彼だけが生き残っていただなんて……とても信じられなかった。
……しかも兵士として。
本当に驚いた。
私はあらゆる手段を使って彼を日本に呼び戻し、莉緒と同じ学校へ通わせた。
そして私の狙い通り莉緒と彼が恋仲になった。
莉緒があんなにも奥手だったのは意外だったけど、結果オーライよ。
本当に喜ばしい事だわ。
許婚同士が13年ぶりに運命の再会を果たす。
ロマンチック……とてもロマンチックよ。
これから、あの2人はどんな物語を見せてくれるのかしら。
あの御方もそろそろ、彼が生きている事に気付くでしょうしね。
***
「なあ莉緒……なんかまた部屋変わってないか」
「な、な、な、何のことかしら?」
「いや……リビングが超広くなってるだろ」
「気のせい……じゃない?」
「なあ莉緒……なんでリビングにジェシカが居るんだ」
「さ……さあ、本人に聞いてみるのが1番なのではないのかしら」
あ……頭が痛い。
カリフォルニアから帰ると、家が別物に変わっていた。
具体的には優里亜の部屋との壁がなくなり、優里亜の部屋にも二階が出来ていた。
もちろん二階の部屋の壁もない。
たった数日カリフォルニアに行っている間に、これほど部屋が変わるなんて……誰が想像できるんだよ。
「真、そうピリピリしないで! 皆んなで一緒の方が楽しいじゃん」
満足気な笑顔を見せるジェシカ。
莉緒とジェシカ2人の顔を見ていると、理由はなんとなく察しがつく。
おそらく……これがジェシカの協力に対する見返りだ。
まあ、ジェシカにも散々世話になった。これは目をつむるほかない。
「皆様、朝食ができましたよ」
このカオスな状況でもいつもと変わらぬ仕事っぷりの鮎川。
この強烈な主人に仕えるには、動じない心が必要なんだな……本当に頭が下がる。
***
カオスになったのは家だけでなく、登校中もだった。
「ちょっとジェシカ……なぜあなたも真にべったりしているのかしら」
「え、いいじゃん、こっち側は空いてるんだし」
2人が俺にべったりなのだ。
「ダメよ! そういう問題ではないのよ!」
「じゃぁ、どういう問題?」
「そ……それは……」
「それは何かな?」
「それは……私と真が」
「私と真が?」
ジェシカの言葉で莉緒が真っ赤になってしまった。
「何かな莉緒ちゃん?」
莉緒は案外ウブで、容赦無くジェシカにからかわれている。
「真、あなたもジェシカになんとか言って!」
そして、そのしわ寄せは当然俺に来る。
「ジェシカ……あまり莉緒をからかうなよ」
「え……からかっていないわよ」
だが俺もジェシカに世話になった手前……
あまり強くは言えないのだ。
***
いつもの10倍の視線を集めて教室に着くと、早速奈緒香が俺の元へ来た。
「莉緒ちゃん、ジェシカ様、ちょっと楠井借りるね」
莉緒とジェシカを牽制し、奈緒香は俺を連れ出した。まあ、俺も奈緒香には話しがあったから丁度いい。
誰にも邪魔されたくなかった俺は、奈緒香を屋上に誘った。
「随分、積極的になってくれたね楠井」
「まあ、お前には聞きたい事も言いたい事も山ほどあるからな」
「わおっ、情熱的」
全部バレているのは分かっているハズなのに奈緒香は一切態度を変えない。
本当に食えない女だ。
——屋上へ着くと奈緒香は早速本題を切り出した。
「ねえ楠井ってどこまで知ってるの?」
「どこまでってのは、どういう意味だ? 今回の計画か? それともこの複雑な人間関係の相関図か?」
「う〜ん、その答えが来るってことは、もう色々知っているんだよね?」
「ああ……お前と鮎川が俺と莉緒の関係を毎日のように紫乃に報告していたこともな」
「え……ちょっと待って楠井、なんで紫乃様を呼び捨てなの? ていうかなんで名前呼びなの?」
「俺が呼び捨てなのは、紫乃だけじゃないだろ?」
「いや、そうだけど普通……彼女のお母さんを呼び捨てにはしないと思うよ?」
「そうなのか?」
「日本人の感覚ではそうだよ」
「俺は、最初に聞いた名前をファミリーネーム、ファーストネーム、ミドルネーム関わらずその名で呼ぶようにしている。フルネームで聞いた場合はファーストネームだ」
「知らなかった……そんなこだわりがあったんだ」
「別にこだわりじゃない。いろんな国のやつと関わると必然的にこうなるんだ」
「へー……ワールドワイドなんだね」
「そんなんじゃねーよ」
「ごめん、話がそれちゃったね」
「構わない」
「それで、楠井の言いたいこと、聞きたいことってなに?」
言いたいことは別にいい、大したことじゃないし聞いても奈緒香ならどうせはぐらかすだろう。
だが聞きたいことは別だ。
カリフォルニアで紫乃と話した時の違和感。
奈緒香が話すか、知っているかは分からないが、この違和感を拭っておかないと、また面倒なことになるような気がする。
「なあ奈緒香……なぜ紫乃は俺と莉緒をつがいにしようとしたんだ? いくら莉緒が恋心を抱いているとはいえ、俺のような無頼漢を九条家に迎え入れようとする意図がみえないんだが?」
「つがい……無頼漢……なかなか普段聞き慣れない言葉だね」
「適切だろ?」
「まあ、適切っちゃ適切なんだけど……」
「そんなことは、どうでもいい、質問に答えてくれないのか?」
奈緒香は不適な笑みでしばらく俺を見つめていた。
そして……、
「分かんない、口止めされてるわけじゃないから、知ってたら教えてあげたいんだけどね」
だそうだ。
俺は奈緒香に対してまだ疑念はあるが、敢えてここでは触れなかった。
莉緒と俺をつがいにするつもりで動いていたのなら奈緒香はなぜ、以前俺に気のあるそぶりを見せたのだ。
それだけじゃない。
俺との出会いにしても、九条家の人間であるなら不自然だ。
奈緒香のあの事故は、莉緒と関わり合う前の話だ。
もし、莉緒との出会いも、奈緒香との出会いも仕組まれていた物だとしたら何となく説明はつく。
だが、そこまでする理由が分からない。
もしかするとその秘密は、俺の過去にあるのかも知れない。
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