第62話 光のドラゴン

※いよいよ次回最終回!

 投稿は2月13日(土)の8:00を予定しています。


 その13日(土)の正午から新連載を開始予定!

 そちらもお楽しみに!


 

…………………………………………………………………………………………………





「えっ……お別れって……」


 エヴァの放った言葉の意味がすぐに理解できず、呆然とするドミニク。

だが、近くで聞いていたギデオンが素早く反応する。彼には、エヴァが何をしようとしているか分かっているようだ。


「母さん!」


 それに気づいた瞬間、ギデオンはエヴァを止めようとするが――すでに遅かった。

 憑依を解いたエヴァは、チラリと視線を横へずらす。そこには、青い顔で倒れているヴェロニカと、かたわらに寄り添うイリーシャの姿があった。

 

「ギデオン、あのふたりを頼むぞ」

「えっ……」

「それからドミニク、お主には長々と付き合わせてしまって悪かったのぅ」

「そ、そんな……」

「――元気でな」

「「!?」」


 最後に、エヴァは誇らしく笑った。 

 ここで、ドミニクもようやく悟る。

 エヴァは命を――いや、すでに霊体となっているため命ではない。その存在のすべてをかけて何かをしようとしていた。


 エヴァがしようとしていること。

 それは紛れもなく、次元亀裂を修復することだろう。


「本来であれば、もうなくなっているはずの命……それが、この瞬間まで見届けることができた。ワシは幸せ者じゃよ」


 噛みしめるように言うと、エヴァの全身が光に包まれる。

 それは恐ろしく純度の高い魔力の結晶体。

 生前のエヴァの持つ魔力の凄まじさが窺えた。

 やがてその光は巨大なドラゴンの姿となり、雄々しく紫色の空を駆ける。


 ドミニクとギデオンは立ち尽くしていた。

 霊竜エヴァの、己の存在をかけた最後の魔法。


 それを目に焼き付けようと、光の竜を見つめ続ける。

 やがて、エヴァは亀裂に衝突。

 その瞬間、強烈な閃光が視界を奪い、これまでに感じたことのない魔力が弾けた。 


「ぐあっ!?」


 突然襲い掛かる激しい横揺れと突風に、ドミニクは身を屈めて必死に踏ん張る。

 だが、ついに耐えきれなくなり、意識を手放してしまうのだった。





 どれほど気を失っていただろうか。


「あっ!」


 おぼろげな意識で空を眺めていたドミニクは慌てて起き上がる。

 周囲の景色――ひと言で例えるなら、それは「至って普通の森」。

 つまり、魔界ではない。


「戻って……来たのか?」


 しばらくボーっとしていたドミニクだが、すぐに次元亀裂のことを思い出して空を見上げる――そこに広がっていたのは、眩しいくらいの蒼穹だった。


「亀裂がない……やったんだ!!」


 思わずガッツポーズが飛び出す。

 だが、すぐに霊竜エヴァの最後の雄姿が脳裏をよぎり、喜びは失せた。

 世界は救われた。

 イリーシャは両親と再会を果たせた。


 ――しかし、霊竜エヴァは消滅した。


 すでに肉体は滅びており、魂だけの存在となってドミニクたちの旅を支えていたエヴァ。

 その最後の言葉は、とても満足げだった。

 思い残したことはすべてなくなり、未来のためにその存在すべてを賭してこの世界を守ったのだ。

 彼女こそ、英雄と呼ばれるに相応しい人物だと、ドミニクは心から思った。


「うん?」

 

 エヴァとのことを思い出していると、どこかから声が聞こえる。

 もしかしたら、魔界との亀裂がふさがる際に、モンスターが入り込んだ可能性もある。

 今や憑依したエヴァの力はない。

 それでも、ドミニクはモンスターが相手だった時のことを想定し、武器を構えて慎重に近づいていく。


 そこには――


「ママ! パパ!」

「イリーシャ……」

「寂しい思いをさせてごめんなさいね……」


 両親と抱き合って大泣きするイリーシャ。


「…………」


 その光景を目の当たりにしたドミニクは、そっと剣を鞘へおさめた。


「よかったな、イリーシャ」


 しばらくは親子水入らずにしてあげようと思い、隊長であるハインリッヒへ報告しようと歩き出した――と、前方からこちらへ向かって走ってくるいくつかの人影を発見する。


「「「「「「ドミニク(さん)!! イリーシャ!!」」」」」」


 その人影の正体は――アンジェ、シエナ、エニスの三人に加えて、ハインリッヒと部下たちだった。


「やれやれ……」


 せっかくの親子水入らずも、台無しになってしまいそうだ。

 ドミニクは苦笑いを浮かべながらアンジェたちに歩み寄る。


 こうして、次元亀裂は見事に消滅し、世界は救われたのだった。






 ――そして、二年の月日が経った。


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