解毒マン

 ダーシャに対しての集中攻撃が始まった。

 たちまち彼女は10人近い盗賊に囲まれてしまう。

 それに気づいたウォリーは援護に向かおうとするが、別の盗賊が妨害してきてなかなか進めない。


 すると、今までダーシャの両手に集中していた黒炎が彼女の腕を伝って背中に移動し始めた。

 盗賊の剣が彼女に向かって振り下ろされた瞬間、彼女は真上に高く飛び上がった。

 盗賊達が空を見上げると、空中に留まったままの彼女の姿があった。彼女の背中に集まった黒炎は左右に大きく広がり、巨大な翼を形成していた。

 炎の翼を羽ばたかせて盗賊達を見下ろす彼女が、頰をプクッと膨らませた。

 そして次の瞬間、口から黒炎の塊を盗賊めがけて吹き出し始めた。


 下に居る盗賊達はパニック状態だった。既に何人かの盗賊は火球が直撃して焼かれている。多人数で彼女を囲って攻撃するつもりが、空を飛ばれてしまっては剣も届かない。

 盗賊達の中で遠距離攻撃に長けた者が彼女に向かって矢を射った。しかし彼女が吐き出す炎によってその矢は焼け落ちて行く。


「ば、化け物だぁ!」


 盗賊達は恐れをなして彼女から距離を取ろうとする。

 ゴメスは1人の盗賊に合図を送った。

 盗賊は捕まっている村人の中から幼い少女を選んでダーシャの前に引っ張って行った。

盗賊が少女の喉元に剣の刃を押し当てる。


「おい魔人族!大人しくおりてこい!この子供の喉を掻っ切るぞ!」


 少女を人質に取られ、ダーシャは仕方なくその場に降りて行った。ゴメスは彼女が少女に気を取られてるのを確認し、別の部下に「今だ」と合図する。

 それと同時にダーシャの脇腹を矢が貫いた。

 口から血を吐いてダーシャはその場に倒れた。


 ウォリーはお助けスキル『盗賊マン』を発動させた。このスキルは鍵開けの他に自分の足音や気配を消す能力がある。

 ウォリーは建物の影を走り抜けて、少女を人質に取っている盗賊の背後へ回った。音もなく盗賊の近くまで瞬時に接近すると、背中を切りつけた。

 盗賊は倒れ、少女が解放される。

 そのままウォリーはダーシャの元へ駆け寄った。


「ダーシャ!!!」


 そう声をかけるが彼女の目は虚ろな状態で、全身は力なくぐったりとしていた。彼は回復マンを発動させ傷口を癒す。

 傷は完全に塞がったが、それでも彼女はぐったりとしたままだった。


「ウォリ…毒だ…矢に毒が…塗られ…ている…」


 彼女が息も絶え絶えにそう言った。傷自体は無くなったが、全身を回った毒までは治せなかったようだ。


「私は…ここまで…だ…後を頼む」


 その時ウォリーに向かって矢が飛んできた。ウォリーは剣でそれを叩き落とす。

 すると今度は剣を持った盗賊が彼に斬りかかってくる。ウォリーはそれを剣で防御し、足で盗賊を思いっきり蹴り飛ばした。


「おい!その女はもうダメだ!放っておけ!」


 近くで戦っていた冒険者の1人がウォリーに声をかけた。


「そうだ…私に…構うな。お前まで…危険に…なる」


 しかしウォリーは彼女を庇うように立ち、剣を構えて周りを囲う盗賊達を威嚇した。


(ここを離れたら動けない彼女は間違いなく殺される…)


 ウォリーの顔を汗が伝った。

 斬りかかってくる盗賊と刃を交えながら、彼は心の中で必死に叫んだ。


(頼む…助けて…)


 数人の盗賊を切り倒し、ウォリーがダーシャの方をちらりと見ると、彼女の目の光が消えかかっていた。意識も殆ど無いようだ。

 ウォリーは叫んだ。


「助けて!!!お助けマン!!!!」



≪お助けスキル『解毒マン』の取得が可能になりました≫



 ウォリーは次々襲ってくる盗賊と戦いながら、頭の中でスキル取得を選択する。



≪解毒マン≫


≪対象に触れ「解毒マン」と唱える事でその対象を…≫


「ポイント全部使い切ってもいい!!スキル取得だ!!!」


 頭の中の音声がスキル詳細のを言い終わる前に、ウォリーは叫んだ。


 左右から盗賊の刃が迫ってくる。ウォリーは地面を転がるようにしてそれを躱し、ダーシャに手を置いて「解毒マン」と唱えた。

 すると彼女の目にどんどん光が戻って行く。

 ウォリーはそれをみて安堵したが、その喜びに浸る間も無く盗賊が攻撃を仕掛けてくる。

 盗賊達の刃を受け流し、近くにいた3人程を何とか斬り倒す。

 ウォリーも連戦で呼吸が乱れてしまい、その場に立ったまま大きく深呼吸をした。

 その背後から盗賊が弓を引いているのを彼は気付かなかった。

 ウォリーの背中めがけて矢が放たれる。


 その瞬間、黒炎が吹き上がってウォリーを包み込んだ。

 ウォリーが驚いて周囲を見回すと、彼とダーシャを囲む形で黒炎の防護壁が作られていた。

 飛んできた矢は黒炎の壁に飲まれてウォリーに届く事は無かった。


「私に構うなと言っただろう。このお節介焼きが…」


 ダーシャがゆっくりと立ち上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る