ゴメスとシド

「くそ!どういう事だ!」


 冒険者の1人が冷たい石壁を殴りつけた。


「あの村長が盗賊とグルだったって?本当かよ!」

「あそこに魔法陣のトラップが仕掛けられていたという事は、僕たちがあのルートを通る事を事前に知っていたとしか…」


 しばらく洞窟内に沈黙が続いた。

 冒険者達は怒りに唇を震わせ、目を血走らせている。


「村長が情報を流したとして…一体何の為だ?ギルドに依頼したのは村長本人のはずだ…」


 ダーシャがそう言って頭を抱えた。


「あいつ、自分の村を潰すつもりか?」







「今回は助かったぜ。冒険者とやり合うのは面倒だからな」


 盗賊のアジト内。リーダーのゴメスは笑みを浮かべながら酒を口にする。

 彼とテーブルを挟んで向かい合っているのは、べボーテ村の村長シドだった。


「冒険者達はあなたに差し出しました。約束は守ってくれるんでしょうな」


 シドの問いに、ゴメスはふっと鼻を鳴らした。


「安心しろ。約束通り俺たちは今後村には一切手出しをしない。数日中にここを出て行くよ。冒険者達が討伐失敗という情報が流れれば国が兵隊を送ってくる可能性もあるからな」


 それを聞いてシドの口元が微かに緩んだ。


「しかしお前、何でこんな事をする?これがギルドに知られたらお前…ただじゃ済まねえだろ?」


 僅かに笑みを浮かべていたシドが、すぐに真顔に戻った。瞳の奥には怒りの感情が浮かんでいる。


「ギルドの連中。魔人族の冒険者なんかこっちに寄越しやがった。俺はな、魔人族が大嫌いなんだ」

「ほう…」

「もし、魔人族にこの村が救われるなんて事があってみろ。我が村の汚点だ!あんな奴に手柄を立てさせるわけにはいかん」


 怒りに震えるシドの言葉を、ゴメスはニヤつきながら聞いていた。


「村は守る。魔人族には手柄を渡さない。俺にとっては一石二鳥のこの方法が一番なんだよ」


 ゴメスは一回、大欠伸をすると天井を見つめた。


「さぁ〜て、あの冒険者達はどうするかな。遠ぉ〜くの国に奴隷として売っちまおうか…」


 ゴメスがそう呟いていると、彼の部下が寄ってきた。


「お頭、例の品の準備が出来ました」

「おぉ〜そうか、ご苦労。こっちへ持ってこい」


 ぞろぞろと部下がやって来てシドの横に木箱を積み上げていく。


「なぁ村長さんや。あんたらには迷惑をかけたが今は協力関係にある。これは今までの詫びだと思ってくれ」

「これは…?」

「酒だ。かなり上質なものさ。盗品じゃないから安心しろ。沢山あるから今日にでも村のみんなに配ってやってくれ」


 ゴメスはシシシッと声をあげてシドに笑いかけた。


「ああ、これを村まで運ぶのは部下に手伝わせてやるよ。誰かに見られても村人の変装をさせときゃ盗賊だって気付かれねえだろ」

「…わかった。では有り難くいただこう」


 シドは積み上げられた木箱の1つを手に取る。ゴメスが「おい」と一言合図すると、部下の盗賊達がシドに続いて木箱を運んでいった。


「…本当に間抜けばかりだ…」


 ゴメスは手元の酒を飲み干すと、そう呟いた。







 ウォリー達が閉じ込められて5時間が経過した。

 未だに彼らは脱出の方法を見つけられないでいる。


「何とかして出る方法を見つけないと、このままじゃ俺たちどうなるかわかんねぇぞ」


 冒険者達は焦っていた。場合によっては死を覚悟しなければならない。


「チャンスがあるとすれば、盗賊がここから俺たちを移動させようとする瞬間だろう。盗賊はずっと1箇所のアジトに留まり続ける事は無い。盗賊がここを移動する時が来れば、その時奴らはここの扉を開けるはずだ」


 別の冒険者が溜息をついた。


「今は下手に動かず機を窺うしかないってことか…」

「いや、そんな余裕は無いと思います」


 ウォリーが鉄格子を握り締めながら、言った。


「僕らがずっとここに居たら、一体誰が村を守るんです?一刻も早くここから出て村人の安全を確保しないと…」

「おいおい。こんな時に他の人間の心配してどうする。今は俺たち自身が殺されそうだってのに」


 冒険者の1人が鼻で笑う。それでもウォリーはここでじっとしているのが我慢ならなかった。必死に頭を回転させ、脱出の方法を考える。


 その時、鉄格子から見える通路の奥。その暗闇の中からかすかに声が聞こえた。

 ウォリーが必死で耳をすますと、盗賊が2人、会話をしているようだった。


「武器の準備はできたか?」

「ああ、最後に一儲けだ」

「それじゃ行くか。村中から金目のもん全部奪ってやる」


 ウォリーは絶望した。盗賊達は村を襲撃するつもりなのだ。


「まずい!盗賊が村を襲おうとしてる!しかも今からだ!!」


 冒険者達にそう叫んでも彼らは動こうとしない。どの道ここからは出られないのだ。彼らにとってこれ以上暴れるのは無意味な事だった。

 ウォリーは何度も鉄格子の扉を蹴りつけた。


(村の人達が危ない!何としてもここから出ないと!助けないと!!!)

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