お助けマン

「お助け…マン?」


 ウォリーの頭の中に響いたその名前。おそらく自分のスキル名であろうそれを、彼は困惑しながら口にする。


「そう。それがあんたの新しいスキルじゃ。その名の通り、人助けに特化したスキル。今のあんたにはぴったりじゃろう?」

「なんか…あまり凄そうでは無いんですが…」


 まだスキルの全容を掴めていないウォリーは、苦笑いをする。


「ふむ。本来スキルの能力を調べるのは鑑定師の仕事じゃが、スキル覚醒の能力を持つワシにはあんたのスキルの詳細まではっきり見えとる。特別に教えてやろう」


 老人は人差し指をピンと立ててウォリーの顔の前に突き出した。


「『お助けマン』の能力。その1!『お助けポイント』!!」


「お助け…ポイント?」

「そう。通常冒険者は敵と戦い、経験値を入手することで強くなる。じゃが、お助けマンはそれとは別の方法でも強くなる事が出来るんじゃ。それが…お助けポイント」


 老人は嬉々とした態度で説明を始める。


「人助けをする度にお助けポイントが加算される。どれだけ加算されるかは人助けの内容の大きさによって変わる。ただし、自分の仲間や親しい友人、親族などを助けてもポイントは入らんから注意じゃ。仲間を助けるなんて事は当たり前の事じゃからの。助ける筋合いの無い人間。赤の他人をあえて助ける事が人助けとして認められるんじゃ」

「その…お助けポイントでどうやって強くなるんです?」

「このお助けポイントは消費する事でステータスを上げる事が出来る。つまり人助けをすればするほど強くなれるんじゃ!じゃが、お助けポイントの使い方はこれだけじゃあない」


 老人は指を2本立て再びウォリーの前に出す。


「『お助けマン』の能力。その2!『お助けスキル』!!」


「あ…すいません深夜なんで声抑えて貰えます?」

「なんじゃ、テンション下がるのう…。まぁいい。あんたがもし困ってる人に遭遇して、その人を助けたいと強く願う時、それに見合ったスキルが手に入るというとんでもない能力。それがお助けスキルじゃ!…例えばそうじゃな。あんたの前で怪我人が倒れているとする。あんたは彼を助けたいと思ったが、治癒師のスキルを失ったあんたにはそれが出来ない。そんな時、お助けマンはお助けスキルとして治癒系のスキルをあんたに与えてくれるんじゃ!」

「…え?それってつまり、複数のスキルが使えるって事ですか!?」

「そう!本来1人にひとつのはずのスキルを、2個も3個も…いや、10個、20個も夢じゃない!凄まじい能力じゃ!」

「そ、それってやばくないですか…?」

「ただ〜し、お助けスキルはタダでは手に入らない。スキルを取得するためには、お助けポイントを支払わなければならないんじゃ。強いスキル程高いポイントが必要になるからそこは注意じゃ」


 ウォリーは顎に手を当てて眉をひそめた。


「なるほど、とにかく強くなるためにはお助けポイントを稼いでいかなきゃいけないってわけか…」

「そうじゃ。今のあんたはお助けポイント0な上に、治癒師を失って使えなくなっておる。ヒーラーは魔力以外のステータスが低いから、そんな状態で戦闘に出たら相当苦戦するじゃろう。今のままではまだ弱いっちゅう事じゃ」


 そう言うと老人は立ち上がり、部屋の窓を開けた。夜風が入り込みウォリーは涼しさに包まれる。



「ま、このスキルをどう活かすか、それはあんた次第じゃ。期待しておるぞ」

「え!?…ちょっと!」


 突然老人が窓の外から飛び降りたので、慌ててウォリーが窓に駆け寄ると、そこから見えたのは物凄いスピードで走り去っていく老人の姿だった。


(普通に扉から出ればいいのに…)



 ウォリーは全身の力が抜けた様にベッドへ倒れ込む。まだ頭が混乱している。

 思えば今日は色々な事があった。パーティを追放され、部屋に帰れば老人に侵入されていて、新しいスキルに覚醒した。

 現状を一生懸命受け入れようと頑張っているうちに、いつの間にかウォリーは眠りに落ちていた。






 ウォリーが目を覚ますと既に昼時だった。昨日色々あったせいで疲れが溜まったのか、10時間以上寝てしまっていた。

 とりあえず冒険者ギルドへ行こうと身支度を始める。

 『レビヤタン』に居た頃は結構稼ぎがあったので貯金は結構溜まっていたが、パーティを抜けた今後は稼ぎも少なくなるだろうし、色々と頑張らなければならない。

 ウォリーが住んでいるのは冒険者向けの宿屋。あちこちのダンジョンに行く関係上、各地の宿泊施設を転々としていた。

 彼の部屋から廊下に出れば、多くの冒険者達とすれ違う。

 今さっきも彼の横を屈強な肉体をした男性が通り過ぎていった。見た目からして前衛タイプだろう。

 ふと、ウォリーの足元に一本のペンが転がっているのに気が付いた。彼はそれを拾うと、さっきすれ違った男に声をかける。


「あの、これ落ちてたんですけど、もしかして貴方のですか?」

「え?ああっ!俺のだ、悪いな」


 男は頭を搔きながらペンを胸ポケットに刺した。


≪お助けポイントが100ポイント付与されました。≫


「えっ!?」

「ん?」


 突然頭の中で鳴った声に反応したウォリーを、屈強な男は不思議そうに見つめた。


「あ、いや何でもないです…」


 そう言いながらウォリーは実感した。

 昨日の出来事が夢では無かったと。

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