第67話 ジュリアスの心中を察するよ

「おー、マリーリちゃん元気〜? ん? どうしたの、そんな首元までしっかりとしたドレスで。だいぶ暖かくなってきたというのに。あ、もしかして風邪? 明日の結婚式大丈夫?」


 明日は結婚式ということで、今日は身近な親類を呼んでのプチパーティーだ。

 ということで、早速ジュリアスの兄であるブルース達がやってきたのでマリーリ達はお出迎えをする。


「ご無沙汰してますブルースさま。いえ、ちょっと色々ありまして。体調は万全ですし、明日の結婚式は大丈夫です」

「そう? ならいいんだけど〜」


 マリーリは、はは、と乾いた笑みを浮かべたあとにチラッとジュリアスを見ると、彼は開き直っているのか全く気にした様子も見せずにマリーリの腰を抱いたままこちらを見ない。

 それがなんだか無性に悔しくて、マリーリはジュリアスの脇腹をつまむが、全然動じず、余計に悔しくなるだけだった。


「ジュリアスもやほー!」

「どうも」

「なんだよもー! 本当ジュリアスはつれないなぁ〜! あ、そういえば、二人は会うの初めてかな? 妻のリサと息子のダンだよ」

「初めまして、ジュリアスさま、マリーリさま。この子も初めましてですね、息子のダンです」

「こちらこそ、初めましてマリーリです。うわぁ〜、可愛いーーーー!」


 リサに抱かれている男児、ダンを見て破顔するマリーリ。

 ダンは半年すぎたところということで首は据わっているものの、まだ歯も生えてなければ手も足も何もかも全てが小さく、これほど小さな赤子を間近で初めて見たマリーリは興奮しっぱなしで、リサの近くでずっとデレデレしながら見続けていた。


「マリーリさま。せっかくですし、抱いてみます?」

「え、いいんですか? でも私、赤子を抱くなんて初めてで。落としたりしたら大変ですし」

「大丈夫ですよ、わたしもダンが生まれるまでは経験してませんでしたから」

「そうなんですか? って、身近に赤ちゃんいないとそうですよね」

「えぇ、だからわたしも慣れないことばかりでいつもバタバタです」


 リサも今まで経験がなかった、という言葉にちょっと勇気をもらうマリーリ。

 そしてにっこりとリサに微笑まれると、おずおずと手を伸ばした。


「こうして背中からお尻にかけてしっかり持ってあげて……」

「こ、こうですか?」


 レクチャーされるがままダンを抱くマリーリ。

 思ったよりもずっしりとした重みがあり、落としてはいけないとしっかりと抱え込む。

 近くでダンの顔を見ると、ぷくぷくとした頬の様子や小さな唇、ちょこんと乗った鼻を感じられて、よりメロメロになった。


「あぁ、なんて可愛らしいのかしら。ねぇ見て、ジュリアス」


 ジュリアスに見せるようにダンを抱いてあげると、なんだか複雑な表情をしている。


(あれ? もしかして、ジュリアスって子供嫌いなのかしら)


 一瞬不安になるマリーリだが、「もう、僕がいるからって照れてるときにそうやってわざと無表情になるのやめてくれないー?」とブルースが茶化すと「煩い」と言いながらジュリアスは顔を真っ赤にしていた。


「ほら、すぐそうやってカッコつける〜。いいじゃない、マリーリちゃんとラブラブなとこ僕に見せつけてもいいんだよ? ん? ん?」

「そういうとこが嫌なんだよ」

「もう〜照れちゃって可愛いんだから、僕の弟は〜」

「煩い、黙れ」


 明らかに温度差を感じる二人。

 ジュリアス大好きなブルースに対し、その圧に気圧され気味というか引き気味のジュリアス。

 その様子を見ながら、なるほどジュリアスが敬遠するのもわかる気がしないでもない、と思いつつダンをリサに返した。


「リサさま、ありがとうございます。あぁ、こんなに可愛いなら早く私も子供が欲しいです」


 マリーリの言葉にブフッと勢いよく咽せて咳き込むジュリアス。

 慌ててマリーリが「どうしたの!? 大丈夫?」と背を摩れば、「だ、大丈夫だ」と顔を先程よりも赤くしながらジュリアスが答えた。


「ふふ、マリーリさんもすぐにできますよ」

「ジュリアスの溺愛具合と執拗さを鑑みると、めちゃくちゃ子沢山になりそうだよね」

「んんんっ! 兄さん、そういうことをあけすけに言うな」

「えー、だってそうじゃない? ねぇ、リサ」

「ちょ……っ、わたしにその話題を振らないでよ」


 ブルースはニコニコと相変わらず機嫌がよさそうに、リサは戸惑ったように苦笑している。

 ジュリアスは引き続きなんとも言えない難しい表情をしていた。


「ジュリアスも早く赤ちゃんが欲しい?」

「それは……マリーリとの子供ならすぐにでも欲しいぞ」


 ジュリアスの言葉にヒュウーと茶化すように口笛を吹くブルースを、リサが「こら」と窘めたときだった。


「ところで、私ずっと気になってたんだけど、赤ちゃんってどうやってできるの?」


 マリーリの発言に、一瞬で場が凍る。


(あれ、私……何か変なこと言ったかしら)


 マリーリが凍った空気感に気づいてあわあわすると、ブルースはふるふると身体を揺らして震え、リサはそれを「ブルース、笑うとこじゃないわよ」と諫める。

 そしてジュリアスはさらに険しい顔になっていた。


「ジュリアスの心中を察するよ」

「勝手に察するな」

「ジュリアス?」

「その辺の話は結婚後に話す、というか実体験してもらうというか……」

「そうなの? 結婚後ね、わかったわ。楽しみにしてる」


 マリーリの言葉に耐えきれなくなったブルースがそこで思いきり噴き出す。

 それを「ブルース!」と彼の背を叩くリサ。

 ジュリアスはまさかマリーリが今の今まで子供の作り方について知らないことに驚愕しながらも、それ以上何も言わずに話題を変えるべく家の中を案内することに切り替えたのだった。

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