第64話 それはなんという三つ巴……

「とまぁ、今回の元凶はキューリスなのだが、元々我はオルガスのほうに探りを入れていてな」

「オルガス公爵、ですか?」

「あぁ、先代の王……我の父はヤツを買っていたが、どうにもきな臭いと思って調べさせていたのだ。すると、ヤツは闇市場の元締めでな」

「も、元締め、ですか?」


 そんな情報聞いてもいいのか、とジュリアスを見るが、彼は何も言わずにマリーリの腰を抱いて引き寄せるもそのまま何も言わなかった。


「そして、とある伝手から利権を使ってオルガスが人身売買で幼い少女を性奴隷として買っていると密告が入ってな。それから芋づる式に悪事が出てきたのだが、そこでちょうどブランの一件で身の危険を感じたキューリスが何らかの方法でオルガスの弱味を握ったらしく、キューリスが養子入りしてな。それからまた証拠が取りづらくなって困っていたんだ」

「そうだったんですね」


 まさかここでキューリスが絡んでくるとは思わず、想定外の展開に頭がついていかない。


「それでキューリスの調査とオルガスの調査を並行して行ってきたのだが、そこに今度はグロウも介入してきてな」


(それはなんという三つ巴……)


 ギルベルト国王は当時のことを思い出したのかうんざりした表情をしていた。

 ジュリアスのほうを見ても、同じく複雑な表情をしている。


「こともあろうにジュリアスへの嫉妬心で動いていたという、なんともまぁ粗末な動機なのだが。それでキューリスと結託してジュリアスを陥れるためにマリーリ嬢を利用しようとしたらしいのだ」

「はぁ、なるほど……。そういうことだったんですね」

「それでまさか隣国まで引っ張ってくるというのは頭の痛い話なのだがな。なんとまぁ、変なところで思いきりがいいというか、頭が回らないのにも関わらず、そういった大胆な行動をするからわざわざバカでもできるだろう騎士団長として役づけさせたんだが、本当に申し訳ない」


 ギルベルト国王が謝ることではないのだが、身内の不始末ということで頭を下げられる。

 まさか自分が連れ去られた理由がジュリアスを貶めるというだけではなく、嫉妬心からということに、なんとも言えない複雑な心境だった。


「しかもアホだからジュリアスを貶めたあとに隣国の者達を全て掃討し、自分の手柄にできると思ったらしいが、見事に返り討ちにされているしな。全く、あそこまでアホだとは思わなんだ」


 一気に老けたような様子で「はぁぁぁぁ」と大きく溜め息をつくギルベルト国王。

 まぁ、無理もないだろう。

 自分に認められたいからと国民を利用し、隣国を巻き込んでズタボロにされる身内がいたらそういう心境にもなる。


(とはいえ、いくら何でもアホアホ言い過ぎではなかろうか)


「あの、隣国とのことは……」


 越境したこともそうだが、ジュリアスはあの場で何人も殺してしまったのだし、さすがに隣国と問題になったのではないだろうかと不安になるマリーリ。

 まさか処刑なんてことになったら、と思うと不安で視線が揺れた。


「あー、そこはお互いに手打ちということにした」

「え……。手打ち、ですか?」

「そうだ。一応曲がりなりにも王族であるグロウをボコボコにされているからな。我が国民であるマリーリを誘拐しようとしていたのも事実であるし、それを踏まえて交渉したのだ」


 ギルベルト国王が即位して以来、国はよい方向に変わってきたとグラコスから聞いていたマリーリだが、さすがの手腕だと感服する。

 それと同時に、あの一件でもし戦争が起こったらとマリーリは不安になっていたが、それが杞憂だとわかってホッとした。


「そうだったんですね。じゃあジュリアスが何か処罰されたりとかは……」

「あぁ、ないない。この朴念仁は我が国の主力だからな。使い倒すさ」

「何だその言い草は。俺はもうお前の言うことは聞かんぞ。今回の件で散々だったからな!」

「ふぅん、そんなことを言っていいのか? せっかくちゃんとした結婚式や新婚旅行に行くための費用や休日を用意しようと思ったのだがなぁ。グウェンに全部ナシだと伝えようか?」

「っく、卑怯だぞ……っ!」

「ははは、卑怯なくらいでないと国王など務まらぬわ!!」


 大きく笑うギルベルト国王。

 ジュリアスはある意味本当に大事にされているんだなぁ、とわかってマリーリは嬉しくなった。


「とまぁ、これが今回の顛末だ。ちなみに、キューリスは独居房へ幽閉。オルガス公爵は宮刑後独居房に幽閉。グロウはダラスの管理下のもと、我のために死ぬまで働いてもらうことになっておる。これでマリーリ嬢も何かされることはないだろう」

「ありがとうございます。ところでグロウさまは無事なのでしょうか?」

「あぁ、失明と難聴……その他諸々だいぶ手酷くやられたが、一応生きている。今後ダラスの管理下と言ったら嫌だと駄々をこねるくらいには元気だ。あやつは我には懐いているくせにダラスには懐かなくてなぁ。何でなんだか……」


(ダラス宰相は鬼やら悪魔やら言われるくらいに手厳しいと聞くから、身内や手負いであっても容赦しなさそう)


 冥王との異名があるのは伊達ではないな、と思いながらも手負いとはいえグロウがダラス宰相の監視下に置かれたことにマリーリはホッとする。

 失明や難聴など障害を負ったのは同情するが、ようやく自分の生活に安寧が来るのだと思うと心の底から安心した。


「色々と本当にすまなかったな。あぁ、マリーリ嬢、ジュリアスに何かされたらすぐに我に言えよ? 我がすぐにそなたを引き取ってやろう」

「だからそういう余計なことを言うんじゃない!」

「ご心配どうもありがとうございます。ですが、今後は何かあっても溜め込まずにちゃんと話していこうと思いましたので、大丈夫です」

「そうか、ならいいが。あぁ、結婚式にはぜひ呼んでくれ」

「絶対に呼ばないぞ」

「貴様には言っていないぞ、ジュリアス。我はマリーリ嬢に言ったのだ」


 また二人で言い合いが始まるのを苦笑しながら見守るマリーリ。

 仲がいいんだか悪いんだか、お互い気のおけない仲であるようなことだけはわかった。


「あぁ、そうそうマリーリ嬢のメイド殿にもよろしく伝えておいてくれ」

「メイド、ですか? ……恐れながら、我が家にメイドは何人かいますが、誰のことでしょうか」

「マリーリ嬢の一番のお気に入りのメイドのことだ。あー、今は名をなんと名乗っていたか……? とにかく、我の名を伝えて感謝をしていたと伝えてくれ」

「は、はい! わかりました。伝えておきます!」


(私の一番のお気に入りって……どう考えてもミヤのことよね。陛下とどんな繋がりがあるのかしら?)


 マリーリは疑問に思いながらも頷くと、ギルベルトは口元を緩めて笑ったのだった。

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